表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫村人のレベルアップ冒険譚  作者: 砂糖雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/25

知識の評価と新たな道

リアの怪我は、上級僧侶の魔法ですぐに完治したが、念のため、アステルは病院棟で付き添いをしていた。

病院棟は、木と石造りの学校の他の棟とは違い、床から壁まで全てが無機質な白い大理石で覆われており、消毒薬のツンとした匂いが常に漂っていた。この清潔な空間は、村の土の匂いや図書館の古書の匂いに慣れたアステルにとって、緊張感を与える場所だった。

病室のベッドでリアが眠っている横で、アステルは静かに座っていた。彼は、リアの安らかな寝顔をじっと見つめながら、静かに安堵のため息をついた。

(本当に良かった。もしあの時、僕が知識を学んでいなかったら、リアにひどい後遺症が残っていたかもしれない。知識は、剣と同じくらい強い武器になるんだ)リアが完全に回復したことで、不安感から解放され、自身の「知識の力」が正しかったという確信を深めた。

病室に、リアを治療した上級僧侶マルコが入ってきた。マルコはアステルに温かい視線を向けた。

「アステル・ウッドくん、君の応急処置は見事だった。あれほど迅速かつ正確な処置は、【回復見習い】には不可能だ。君は【村人】だと聞いたが……」

マルコは首を傾げ、アステルを評価する言葉を続けた。「君のその知識は、座学だけでは得られない。素晴らしい才能だ。君のような生徒は、この学校では極めて稀だよ。」

穏やかな声音とは裏腹に、彼の思考は鋭く研ぎ澄まされていた。

(【村人】だと? ありえない。この正確すぎる薬草学の知識と応用。偶然では説明がつかない……。

彼には【薬師】か【賢者】の適性が、まだ表に出ていないだけのはずだ。それなのに、ジョブ認定システムが見逃している? そんな馬鹿な話があるはずがない)マルコは表情を崩さぬまま、そっと視線を生徒に戻す。

「……これからも、その探究心を大切にしなさい。君なら、きっと大きく伸びる。」

だが心の奥底では、すでに“監視対象”として彼を見据え始めていた。

アステルは、褒められることに慣れていないため、肩をすくめ、小さくなろうとした。

「あ、ありがとうございます……でも、ただ本に書いてあったことをしただけです」

「謙遜する必要はない。教官たちも君の報告に驚いていたよ。君は、自分の知識で、この学校で最も才能ある生徒の一人、リア嬢の命を救ったんだ」

マルコの言葉は、アステルの自信を静かに満たしていった。

翌日、アステルはグラード先生の教室に呼び出された。教室には、相変わらず古書の独特の香りが漂っている。

グラード先生は、新聞紙の上にリアの怪我の記事を広げていた。

「フン。優秀な【騎士見習い】が、役立たずの【村人】に命を救われた。面白い皮肉だ」グラード先生は、口の端をわずかに上げて、アステルを見た。

「貴様の知識は合格だ。だが、知識だけでは命は守れない。今こそ、次の段階に進む時だ。貴様は万能を目指すのだろう?」

(……こいつの知識量は既に【賢者】級だ。理論も判断も一流。だが、それだけでは足りない。

リア嬢が負傷したあの場面――あの時、必要だったのは膨大な知識ではなく、瞬間の機動力と迷いのない選択だった。

次に鍛えるべきはそこだ。戦場で“生き残る力”。それがなければ、この知識はただの重荷になる。)

「はい!次の段階へ進みたいです!」アステルは強く答えた。

「よろしい。貴様が証明した『未定義の可能性』を、実践に移す。貴様は、知識だけでなく、実戦で必要な敏捷性と情報収集能力を習得する必要がある」

グラード先生は、机の上に地図を広げた。

「貴様の次のジョブは【盗賊】だ。そこで得たスキルは、貴様の知識と融合し、強力な武器になる。次の長期休暇を利用し、学校の裏にある『影のギルド』へ行け。そして、そこで【盗賊】の初期ジョブに就け」

アステルは驚いて地図を覗き込んだ。

【盗賊】というジョブは、彼が想定していた【戦士】や【魔術師】とはかけ離れていたが、それが知識とどう結びつくのかという知的好奇心が勝り、挑戦への意欲が湧いた。

その日の夕方、アステルは回復したリアに、ジョブチェンジの計画を打ち明けた。

リアは、アステルの手を取り、その手のひらの墨の汚れを、優しくなでた。

「盗賊?ふふ、アステルが決めたことなら、私は応援するわ。でも……あまり無茶、しないでね。約束よ。」笑顔のまま、指先だけが小さく震えていた。

(……【村人】から【盗賊】に?

きっと、私を守るため。そうでなければ、アステルがわざわざ危険な道を選ぶはずがない。

でも――もう止められない。私には、彼の選択に口を出せる立場じゃない。)

(私も変わらなきゃ。【騎士見習い】のままで終わるつもりはない。この学校で強くなる。彼と同じように、前に進むために――)

「ありがとう、リア」

アステルは、リアの温かい手の感触を強く感じながら、再び故郷の村を出た時と同じ決意を固めた。

(僕はもう、リアに守られる存在じゃない。今度は僕が、盗賊の知識と賢者の知識を掛け合わせて、誰にも真似できない万能の英雄になって、必ずリアを守る!)

彼の瞳には、明日からの過酷な旅路への不安ではなく、未来のジョブチェンジとレベルアップへの確かな期待が宿っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ