表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫村人のレベルアップ冒険譚  作者: 砂糖雨


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/25

リアの負傷と【村人】の救命術

その日の午後、アステルは図書館で古代の符文構造の解析に没頭していた。彼の周囲には、分厚い羊皮紙の巻物が山積みになっており、静寂の中にペン先が紙を擦る音だけが響いていた。

突然、遠くの訓練場の方から、女性の悲鳴と、教官の荒々しい怒鳴り声が響き渡った。

アステルは、ペンを投げ出し、心臓が激しく脈打つのを感じながら、飛び出した。彼の頭の中では、村でのあの夜の光景が蘇っていた。

(あの時も、リアは魔物に襲われて怪我をした……今度こそ、僕が間に合わなければ!)

過去のトラウマと、リアを失うことへの極度の恐怖が、彼の普段の臆病さを吹き飛ばし、行動へと駆り立てた。訓練場へ駆け込むと、鉄と泥の匂いが混ざった生臭い空気が鼻をついた。訓練場の真ん中、赤土が露出した地面の上に、リアがうずくまっていた。

彼女の脚、特に膝から下が、激しく打ち付けられたように歪んで腫れ上がり、そこからは血がにじんでいる。彼女の顔は蒼白で、苦痛に耐えるように唇を噛み締めていた。周囲には、【騎士見習い】のクラスメイトや教官が集まっているが、誰もが混乱していた。

「おい、誰か【回復見習い】を呼べ!早く!」教官が叫ぶ。

すぐに一人の少女、【回復見習い】のミリアが駆け寄ってきた。彼女は手のひらに光を集めようとするが、魔力は不安定で、細い光の筋がチカチカと揺れるだけで、傷を治すに至らない。

「だ、だめです……!私の治癒魔法では、この重い打撲と出血は……」ミリアは顔を真っ青にして涙ぐんだ。【回復見習い】の初期の魔法は、小さな切り傷程度しか治せない。まして、重い打撲と内出血を伴う怪我には、上級職の【僧侶】の力が必要だった。

「クソッ、上級教官を呼んでくる!」教官は歯を食いしばり、訓練場を後にした。誰もが、リアの怪我が悪化していくのを、ただ見ていることしかできなかった。その静寂を破ったのは、アステルだった。

彼は群衆をかき分け、リアのそばにしゃがみ込むと、静かにリアの腫れた脚を見つめた。

「アステル……どうしてここに……」リアは、苦しそうな声で言った。

「黙って、リア」アステルは、初めて泣き虫ではない、理路整然とした声で応えた。

彼はリュックから、昨日図書館で読み終えたばかりの『薬草学と応急処置概論』の知識を呼び起こした。

(骨は折れていない。だが、内出血と炎症がひどい。このままでは腫れがひどくなり、後遺症が残る。まずは、患部を冷やして、清潔に保つことが最優先だ!)

アステルは、服の裾を破って布を作り、それを近くにあった水たまりにつけようとした。

「何をする!その汚い水で余計に菌が入る!」一人の騎士見習いが止めようとした。

アステルは、その騎士見習いを一瞥すると、無言で水たまりに手をかざした。

「【生活魔法:浄水(初級)】」

彼の弱い魔力が発動し、茶色く濁った水たまりは、一瞬で透き通った泉のような水へと変わった。

「な……!?」周囲から驚きの声が上がる。

アステルは浄化された水に布を浸すと、それをリアの腫れた患部に当てた。布から伝わる冷たい感触が、リアの熱をわずかに奪っていく。

次に、彼はグラード先生から「これは【薬師】の基礎だ」と教わった知識を思い出し、訓練場の隅に生えている地味な雑草を素早く摘み取った。

「これは『冷却草』!内出血の悪化を防ぐ作用がある!」彼はそれを噛み砕き、得られた汁を布に染み込ませて、患部を覆い、丁寧に布で固定した。その手つきは、畑仕事でいつも怒られていたアステルのそれとは思えないほど、正確で迅速だった。

アステルが一連の処置を終える頃には、リアの顔の苦痛はわずかに和らいでいた。患部のひどい腫れは残っているが、出血は止まり、炎症の進行は食い止められている。

「……アステル。すごい」リアは、弱々しい声で呟いた。

「大丈夫だよ、リア。あとは上級の治癒魔法を待つだけだ」アステルは、リアの汗で濡れた髪を、優しく指で払った。その時、教官と共に上級の【僧侶】が駆けつけた。僧侶はアステルの処置を見ると、驚きの表情で尋ねた。

「この応急処置をしたのは誰だ!?これほど適切に患部を安定させているとは……専門の【薬師】か?」

アステルは、また周囲の視線に晒され、反射的にリアの陰に隠れようとした。

「い、いえ……【村人】です……」

僧侶は信じられないといった顔をしたが、すぐにリアの本格的な治癒魔法に取り掛かった。

訓練場の空気は、アステルの知識と勇気によって、一変した。彼が最も無力だとされていた場所で、彼の「知識の力」が、優等生の命を繋いだのだ。

リアを助けるという目的を達成したことで、以前のような泣き虫ではなく、内に秘めた確かな自信が芽生えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ