2話
午前10時。
リハーサル開始から1時間。
ベートーヴェン第7交響曲は、すでに3度爆死していた。
テンポは崩壊、音量は暴走、指揮者は過労。
だが、真の戦いはここからだった。
「ちょっと、今日のテンポ、速すぎません?」
「いや、むしろ遅い。俺の感情に合ってない」
「てか、昨日の飲み会で告白されたんですけど、どうすればいいですか?」
——内乱、勃発。
指揮者・陣内奏一は、譜面台の海を見渡す。
そこには、音楽ではなく、感情の地雷原が広がっていた。
混乱の火種たちは、
• 神崎雷人:自称・天才。リズムは魂、テンポは無視。
• 白石美月:恋愛中。昨日、トランペットの男に告白された。演奏中にLINEを確認する癖あり。
• 佐藤翔:就活中。ESと譜面を間違えて持ってきた。
• 藤堂遥:空気を読む天才。だが、読んだ空気に流されてテンポが毎回変わる。
• ヴィオラ隊:沈黙の抗議。存在感が薄いことに怒っている。演奏中に「俺たち、必要?」と囁く。
「昨日の告白、断った方がいいと思いますか?」
「え、俺のこと好きだったの?」
「いや、違う。あれは酔ってただけ」
「じゃあ、なんで俺のソロの時に目を見てたの?」
——演奏中、恋愛相談が飛び交う。
音符は感情に飲まれ、テンポは崩壊。
指揮者は、譜面ではなく人間関係を調整する羽目に。
「お前ら、これは戦争だ。感情は置いてこい。
音楽は、命令だ。恋愛は、後回しだ。
今は、ベートーヴェンの魂を撃ち込む時間だッ!!」
だが、神崎雷人が立ち上がる。
「俺は、音楽に命令されたくない。
俺のティンパニは、俺の怒りで鳴るんだ」
——反乱軍、再び出現。
彼は、ティンパニを叩く。
その音は、まるで空爆。
テンポ無視、音量MAX、感情フルスロットル。
「雷人、やめて!譜面が燃えるッ!」
「いや、燃えてるのは俺の魂だッ!!」
指揮者・陣内は、静かに指揮棒を握り直す。
そして、言った。
「ならば、俺がその魂を指揮してやる。
お前の怒りを、音楽に変えてみせる。
俺はコンダクター。だが、同時にコマンダーだ。
この戦場をまとめるのは、俺しかいない」
そして、指揮棒が空を裂く。
雷人のティンパニが、テンポに乗る。
美月のヴァイオリンが、感情を抑える。
翔のトランペットが、就活を忘れる。
遥のフルートが、空気ではなく音楽を読む。
ヴィオラ隊が、沈黙を破る。
——音楽が、戦場を制した。
そして、陣内は思う。
「俺たちは、音楽で戦ってる。
だが、同時に音楽で救われてる。
この戦場は、俺たちの青春だ」




