また出たよ、どこから湧いてくるんだ。こいつらは。
「あぁ、また出てきたよ……この害獣が」
そう言って農家の女性は台所に入って来たネズミを叩き殺す。
「悪く思わないでくれよ。だけどな、お前達に食べ物を喰い尽くされちゃ私達も生きていけないんだ」
そう言いながら食卓で食事をしている子供達を見る。
十一歳の男の子と八歳の女の子。
最愛の夫に先立たれ、それでも一人で守り育てている彼女が産んだ子供だった。
「まったく」
食い盛りの子供達だ。
パンのひとかけらだってネズミに食わせるわけにはいかない。
「お母さん」
ふと二人が歩いてこちらへやって来る。
「お腹空いているでしょ? 僕達のパンを食べてよ」
そう言って差し出されたパンはどちらも半分より大きい。
まったく。
子供なんだから小さい方を寄越せばいいのに……。
「言ったでしょう? お母さんは先にご飯食べちゃっているんだよ」
「嘘だよ。お母さん、食べる暇なんかなかったじゃないか」
食い下がる男の子の頭をこつんと殴る。
「お母さんが嘘を言う訳ないでしょう。それにそんなに気になるんなら、たくさんご飯を食べてうんと大きくなってお金を稼いでお母さんにご馳走を食べさせておくれ。というより、食事中にテーブルから離れたらダメでしょうが」
子供達は納得をしていない様子だがやがて素直に引き下がる。
そんな二人を見て彼女はネズミの死骸を持ちながら小声で呟くのだった。
「あんた。見ているかい。あんたと私の子供は優しく育っているよ」
お腹は確かに空いていた。
だけど、彼女の心は十分過ぎるほどに満ちていた。
***
ところ変わってここは天国。
神様は頭を抱える。
「いい加減諦めたらどうだ。何度も何度も殺されおって」
そう言われた先にはたった今死んだ一匹のネズミが居た。
「良いか。妻と子供達が心配でどんな姿になってもいいから傍に居たいという心は本当に美しい。だがな……何度もネズミとして生まれてまた殺されていくのは……」
神様の言葉を聞きもせずネズミは再び下界へと飛び降りていった。
また子ネズミとして生まれ、少し成長すればきっと家族の様子を見に行くことだろう。
「まったく……」
神様は素晴らしき愛に頭を抱えるばかりだった。




