Lesson6 明日は黄金の風が吹く
ペルラはミイによって、消火栓の最も近くにある城壁の上で待機させられていた。それは単なる休息ではない。
確実にポリンキーを滅するための策として、ペルラはミイから二つの『力』を教わりその試運転をしていた。
「なるほど、これが『太陽』のリズム……」
今、彼女はミイから渡されたカセットテープ式のウォークマンでミイの人生の『応援歌』を聴いている。
それは『太陽の国』ジャマイカのレゲエリズム「ANSWER」をリメイクしたメロディー。聴いていると、ハートが震え、血液がビートを刻むのを感じる。
若き天才であるペルラはその音楽に合わせて呼吸することで、太陽の波長と同じ生命エネルギーを生み出し『銀の戦士』の持つ剣に纏わせることに成功していた。
「後は『回転』の方ですが……」
ミイによると『回転』というのはただ回せばいいものではないらしい。画家、福田平八郎が長年の観察の末に『鯉』や『筍』などの美しき生命の中に見つけた『黄金三角形』を定規としながら『正しい回転』に近づけるほど、力を発揮するという。
美しき生命の中に秘匿されし『黄金三角形』を見つける。
それは本来、とても困難な事である。
しかし今、ペルラには根拠無しに『黄金三角形』を宿していると確信出来る存在があった。
ならば見つけ出せるかもしれない。
試してみる価値はある。
「いや、きっと出来る。『黄金の回転』が出来るはずだ――ミイさんを見ながら回転させればっ!」
そして、指定した場所で、作戦通りにミイはポリンキーを足止めした。ここから奴にトドメを刺すのが自分の仕事だ。
『銀の戦士』と一体化し、城壁から右足一本で跳躍。
質量落下により加速してポリンキーに迫る。
加速。
体の中に残るありったけを腕一本に集約。
動かせるのは上半身のみ。
腕力だけでは駄目だ。
上半身のバネ、各関節の捻り。吸血鬼の肉体を貫く為に理想的なチカラの流れに、太陽のビート。
敵は目前。
ありったけの力を収束させ加速。
剣を黄金回転。
さらに加速。
渾身の一撃。
――抉り込めぇ!
バン!!!
と、落雷のような音が聞こえた。
日の丸戦闘機の操縦士の如き決死の覚悟で放ち、闇に突き立てる『牙』となった刺突。その一撃に後世で名前がつくとしたら、きっとこう呼ばれるようになるだろうーー
『牙突・ゼロスタイル』
★★★
ペルラが目を覚ました時には全て終わっていた。限界を超える力を酷使した後、どうやら丸二日ほど眠っていたらしい。
傷の完治に一月ほどを要したが、その間ルーマニアに異界からの敵が来る事はなかった。
魔王の一角、『始祖』を撃破した影響のようだ。
暇を持て余し始めていた頃、ミイから絵葉書が届く。莫大な報酬を得た彼女は故郷に帰り、犬を飼ったり美術館巡りをしたりと人生を楽しんでいるという。
それを見て、ペルラは憑き物が落ちたような気がした。元々、聖職者は両親を吸血鬼に殺された因果で始めたものである。
その根源を打倒した今こそ、失った期間の分も青春を楽しんでみようと思ったペルラは、教会に無理を言って長期休暇をもぎ取り、ミイと、今は亡き父親の故郷でもある九州の地方都市の高校に留学生として赴く事にした。
自分のルーツに興味があったし……どこかでまた、ミイと再会できたらいいなぁ、なんて思っていたから。
今日は学生生活の初日。
ペルラは校長に連れられ、これから所属する事になるクラスに向かっていた。
学生服に身を包んだペルラは、拙い日本語で呟く。
「なんだかキンチョウしてきまシタ……」
「大丈夫、みんな優しいよ」
クラスメイトはどんな人達なんだろう。
あと、お世話になる担任はいい人だといいなぁ。そんなことを思いながらドアを開けたペルラの前にはーー
「モーニン!ペルラ!」
「Why?!ミ、ミイ……サン!?」
再会を願っていた人物だった。
「なんだ、二人は知り合いだったのかね?」
「ええ、ルーマニア旅行中に縁がありましたの。サプライズ成功ですわね。」
校長はそうかそうかと笑い、「では後は任せたよ」と去っていった。
「な、ナンデ……?」
「私がこの学校の英語教師で、このクラスの担任で、今から英語の授業だからね。」
さあ、貴女の席はそこよと示されるペルラ。
周囲の生徒が声をかけてくる。
「ペルラさん、ミイ先生と知り合いだったんだ」
「休み時間になったら、ルーマニアで何があったか沢山教えてね」
さて、どうしたものだろうか。
まさかあの夜のことを話すわけにもいくまい。
ペルラが困っていると、ミイが助け船をだした。
「さあさあ、可愛いスチューデント達!そろそろ授業を始めるわよ。校長も去った事だし、ペルラの歓迎もかねて初めはみんなで『あの曲』を歌いましょう。勿論、英語でね!」
えー、先生まじかよ。
ペルラさん、変わった曲だけどびっくりしないでね?
周囲の生徒がざわつく中、ミイは教室の備品であるラジカセのスイッチを入れる。
そこから流れてきた曲は、あの日聴いた歌。
ペルラは破顔し、大声で歌いはじめた。
クール系美少女といった風貌の彼女の思わぬリアクションに、周囲の学生たちが驚いているのがわかる。無理もない、何せペルラ自身が自分の変化に驚いているのだから。でも、構うものか。
つられて、周囲も学生ならではのノリの良さを発揮し、一緒に歌い始める。その声量は増していき、やがて大音量の合唱となった。
黄金が輝く空の下に『人生の応援歌』が響く
ペルラの心にもう、風の音はきこえない
勝ったッ!第一部、完!
完結の記念に評価や感想を頂けると嬉しい(*´ω`*)