第96話 ハートの涙で立ちあがる
暖かな陽の光が指す広場。
そこにはこの世界に無い桜が咲いていた。
別れと出会いの象徴の花。
「本当にお婆様から聞いていた、通り」
「なんて、言ってたんだ?」
涙を拭いて、笑顔を作る。
「ユウトさんは美少年で、エクシーさんは"怖いぐらい"の美女だって……。
"怖いぐらい"って、失礼なのかも、しれないけど……すみません」
エクシーに会釈するリリッシュ。
「そうとしか、表現出来ない」
心の中で、笑う。
魔王の娘だもんな。
緑が動き出すような匂いを運ぶ風が、横を吹き抜けていく。
「ユウトさん、エクシーさんにリリスお婆様から遺言があります」
おれは、顔をあげた。
「うかがいましょう?」
「では……いきますね」
「(日本語で)ありがとう」
心にかみなり。
完璧なイントネーション。
……ありがとう。
ったく。ダメだよ。こんなの練習させちゃ。何やってんだリリス。
なみだ。
エクシーが、おれの肩にそっと手を置いた。
春風、やさしさ。
……なんだよぉ。
*
「これが、お婆様からの手紙です」
〜ユウトさんへ〜
仲間が死んで苦しんでいるユウトさんへ。
昔、カイラ姉ちゃんから、聞いた言葉を送ります。
「ひとりで立ち上がらないでください。
ちょっと誰かを助けてみませんか?
ひとりだと、立ち上がれないけど、誰かのためなら、きっと、力が出てきます」
貴方達がうらやましい。
私の大好きなファミリー。
あの空間にずーっといれて、そして、何度も素敵な出会いに立ち会えるのだから。
死は別れじゃありません。
永遠の愛をこめて。
心の中にずーっといます。
リリス
顔を上げる。
あの日のリリスのように、リリッシュが笑っている。
右肩に置かれた手。
エクシー。
泣くような顔で微笑んでいた。
*
暗闇。
左手、リリスを先頭に"みんな"がいた。
右手、エクシー。
両手に掴んで、ゆっくりと立ち上がった。
ったくよぉ……わるぃなぁ。
涙+照れ笑い=立ち上がる。
「さぁ?! 次の無双を始めようか?」
みんなの後を追って、一歩踏み出す。
──── 完────