第87話 外の文化
かやぶき屋根のツリーハウス。
緑の匂い、茶色の壁。
奥の部屋は、革の匂いに、革紐、革切り包丁、革細工の工房になっている。
こういう、無骨なクラフト系、いいよな。
「エクシー、このバカが迷惑かけたね」
シルフィーヌが、ドラシルの頭を強引に押さえつける。
「いいえー」
にこやかに笑うエクシー。
「ほんっと、使えない、孫娘婿だよ」
シルフィーヌのジト目。
「そんな、おばあさん!」
反論するドラシルに、シルフィーヌが、飛びつきひざ十字を噛ませる。
「イタイ痛いいたい……!」
ドラシルが、ギブアップのように、床をバンバン叩く。
さすが、エルフ。おばあちゃんなのに、見た目と身のこなしにギャップ。若い。
「おばあちゃん、あまり旦那いじめないで……」
孫娘のシルフィンが、健気にかばう。
エルフだから美人だが、小柄な美少女枠だな。
「ところで、ドラシルは奥さん、かけちゃって良かったのかよ?」
「本当にね、私の大事な孫娘だよ!……冗談じゃないよ。ユウトさん、何か別のことで、相談にのってくれないかい?」
……こちらも本気にはしてないけど。
「なぜ?この人をけしかけたの??」
エクシーがやんわり聞いた。
「バレちゃったかい?
ーーエルフはね。
『村の剣豪、王都の戦を知らず』なのさ」
シルフィーヌのその言葉に納得した。
「確かに、奴隷になっていた時期も長かったが……でも、ずーっと引きこもっていてもね……」
愛おしそうに、小さく笑うシルフィーヌ。
「この子にお灸をすえてやって、誰かを外に出してやったほうがいいと思ってね」
「じゃあ?」
シルフィンの顔が明るくなる。
「あんたも、外の世界見てきたいんだろ?」
その言葉にうなずくシルフィン。
「ええ……村の中は退屈なんだもの。
せいぜい、温泉に入って、お酒飲んで、あとは夜の楽しみぐらい」
……いや、十分楽しそうだが。
毎日だと飽きるのか。
「エクシー、ユウトさん、この子の面倒見てもらえないかぃ?」
シルフィーヌが頭を下げた。
ーー
ファミリーの拠点。
作業部屋のテーブルの片側におれとセレナさん。
「今日からお世話になる、シルフィンです」
ペコリと頭を下げる。
「セレナです。貴方が私に教えてくれるの?」
「はい、ユウトさんには、ここでエルフの加工技術を教えるように言われてます」
「本当に?……」
セレナさんの顔が明るくなる。
「前から、革細工とかやってみたかったの」
お裁縫の腕はそこそこだし、他のことをやりたかったらしい。
代わりにファミリーで、『世界情勢の情報収集』、『戦闘訓練』をする事になった。
世界初、エルフの村と人間界の"秘密の"交換留学生だ。
そんな二人を見ながら。
「新婚旅行を邪魔しちゃって、ごめんよ。今度こそ、誰にも知られずに、ゆっくりしにおいで」
シルフィーヌさんの言葉を思い出していた。