第86話 里の試練
「女神さま〜いますか?」
男の声がした。
エクシーと、顔を見合わせる。
こういう時は、男が出るもんだろうと、ドアを開けた。
男のエルフ。白銀の長い髪にイケメン。
おれの事を上から下に舐めまわすように見てくる。
「お前は人間か??」
「人間って言うより……魔王の分身の分身?」
エルフには"人間アレルギー"がある。
こう答えるように、エクシーに言われていた。
「女神さまはいないのか?」
若干眉をしかめるエルフ。
「あなた達は女神って呼んでくれるけど、私にはそのつもりはないけど……」
エクシーがおれの後ろから、顔を出して、答える。
エクシーを見て、目を見開く、エルフ。
「わかった、長に報告させてもらう」
そう言って、男が出ていこうとする。
「待って?……村長はシルフィーヌじゃないの?」
「はぁ?いつの話をしているんだ?
村長は、ドラシルだ」
そう言って、エルフは出ていった。
「ごめんなさい、ユウトさん」
「まぁ……いいさ」
……温泉でしっとり、イチャラブの気分じゃなくなっちゃったよ。
村中にイチャラブのお泊まりがバレているのは、さすがに気まずい。
「シルフィーヌとドラシルって、知り合い?」
「シルフィーヌは、さっきのエルフ。
ドラシルは多分、ユグドの系列だと思うけど……」
ユグドラシル(世界樹)から、とったのか。
まぁ、どうでもいいや。
キングサイズのベッド。
バーベキュー。
湯上がりの彼女に、お酒。
お預けくらった、おれは、項垂れていく。
「なぁ……監視されてる感じは、無かったろ?、なんで、ここにいるのが速攻で、バレた?」
「多分、シルフィーヌが告げたんだと思う」
……村長命令なら、逆らえないか。
名残惜しくて、エクシーとお茶を飲んでいると。
ドンドン!!
さっきより乱暴な音!?
「はいー??」
煩悩が爆発で、八つ当たり的な返事になってしまう、おれ。
「おい、男、出てこいや?
女神さまを賭けて勝負だ!!」
プロレスの煽り文句か?
扉をあける。
「どちらさんですか??」
目の前には豚エルフ。と、男エルフ達。
なんで、豚なのに、エルフ、しかもイケメン?
「村長のドラシルよ」
「ふーん……女性を賞金、扱いね?」
キョトンとしているドラシル。
え……?何か?変なこと言ったか??
「強い男が、手に入れる。世のことわりよ」
エクシーのほうを見る。
小声で、
(たまには、ナイト、ナイト、ナイト……)
……平成の大学飲み会かよ、ってツッコミたくなる騎士コール。
ナイト役ね。わかりましたよ。お姫様。
「それで、勝負って?」
「ついてこい!!」
なんか、山道を登っていく。
ドラシル、おれ、エクシー、男ども。
「うちは、エクシーを賭けるとして、そっちは何を賭ける?」
「ふははは、おれの妻をかけるぞ」
このバカそうな、ドラシルの妻?
ドドドっと、水が落ちる音。
「着いたぞ!」
滝壺を見下ろす、高台。
「ここで、何をするんだ?」
少し、顔が引きつってるドラシル。
「ここから、飛び降れるか?ゆう……」
言い切る前に。
「嫌だ」
「フハハ、男。怖気付いたか?」
……バカじゃね?
重力魔法の特訓は、逆お姫様抱っこからの連続バンジーだったんだよ。
だから、慣れてるの!!お姫様抱っこじゃなくて、落ちるのには。
「いや、濡れるのが嫌なだけで……」
「フン?!言い訳か?」
言いつつ、覗き込みながら、顔が引きつっている。おおかた、ドラシルは怖いらしい。
ひらめいた。
「とにかく、ここから、飛び降りれば、いいのな??」
「だから、そう言ってい……」
ヒョッ!!滝壺に向かってジャンプ。
ヒュー
加速する。
ブワッシャーン。
風魔法を強烈に身にまとって。
エアシールドを貼った。
空気ポールのようになって、そのまま浮いた、おれは岸へ。
待てど暮らせど、豚さまは空をお飛びになりませんでした。
……うん、飛びたくないなら最初から言ってくれ。