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永遠 ♾️ バディ無双 〜爆弾娘と不器用勇者の旅〜  作者: アキなつき
第五部 無双のスローライフ〜人助けと共に〜
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第84話 時の階段が咲かせた花


「初めまして、亡きマルスの三番目の妻、フローラと申します」

エプロン姿で、艶やかに挨拶する、フローラさん。


「ここは?」

王様は、色んな香りが充満する部屋を見渡す。

「香水工房です」

ここの責任者のエクシーが答える。


驚くほど、静かなその部屋。

精油を慎重に垂らす音。

鼻先に試香紙をかざす息遣い。

背筋を伸ばし、微笑みながらメモの音。


彼女達の動作に、繊細さと、緊張感が満ちていた。


「じゃ、また後でね」

エクシーが小声で挨拶して、そろって邪魔しないようにそーっと、部屋を出た。


「ここで、リオンの香水が作られているのか」

貴族たちに高級品として受け入れられているのも、納得できる光景だった。



ーー廊下を歩いて、次の部屋の扉を開ける。


机が並んでいる。

対面で座る子供が8組。


「ここは?」

王様に聞かれる。

「『相互助の部屋』です」

頭の上に「?」マークの王様。


「こんにちは」

ふくよかな女性。

「ベルナさん、こちらが王様」


「初めまして、亡きマルスの妻のベルナと申します」

「マルス殿とは、何度か酒を酌み交わしたな……楽しかったぞ」

口元が綻ぶ王様。

「光栄です……」

小さく口角が上がるベルナさん。

……おれも、ベルナさん、マルスさんの3人でもよく飲んだなぁ。


それぞれの子供の声が聞こえる。対角で座っている、片方が教えてる。


「何をしているのじゃ……?」

「読み書き、計算を教え合う塾です」

ベルナさんが答える。

「それが、“相互助”の由来さ。

教わった子は、すぐに覚えて、別の誰かに教える。

間違えないように、必死に理解しようとするんだ」

おれが解説する。


勉強の邪魔をしないようにそっと後にした。


「ユウト殿、ここは、孤児や職にあぶれた者が生き生きと、働いているな」

「あぁ……、やっと形になってきたな」


三年間の苦労、衝突。

そして、試行錯誤。

すべて……報われた気がして、ホっと胸の奥が温かくなる。


「ルーク君、ここには、亡くなった軍人の奥さんも働いているんだ」

護衛の彼の方を向くと、少し、顔の表情がやわらいだ気がする。


王様と会議室に移動中。


「ちなみに、マルス殿の五人の奥方のうち……今日は四人まで、というわけか」

「ええ、セレナさんは……ちょっと王様にも話せないことがありまして……」

おれはお茶を濁した。

彼女のアレは明かせない。

王様も渋々、納得してくれた。



ーー

静かな空気、午後の柔らかな光。

おれ、王様、ルークと3人と、長机の前に一つの椅子。


「さてと、ユウト殿が優秀だと、太鼓判を押す子がどれほどのものか……楽しみじゃな」

「まぁ、どこに出しても恥ずかしくない子さ」


3年前。

『寄り添う杖』と『イーストテリア王国』との友好の証。

王国への執務官として、うちのファミリーの優秀な子を、雇ってもらう約束をした。


そのための"面接"


孤児→執務官への道が開けるか、初めてのケース。希望になれるか?


……つばを飲み込む。大丈夫。


カイラからも聞いている。

あの子は、ファミリーの名に恥じないように、誰よりも頑張った。

――自慢の妹だと。


ノックの音。


「失礼します!」


その子が入ってくる。

陽の光にキラキラと綺麗な髪の毛が光る。


王様の目が見開かれ、ルークの口もぽかんと開いた。


耳にかけていた髪を、そっと整える。


絶望の淵から立ち上がった。

健気な天才――


「3年ぶりですね、王様」

彼女は、王様の顔を見た瞬間、その聡明さで、食堂でお茶を出した事を思い出した。


「リリス・バルラントです」


我がファミリーの希望のユリの花。

見る者を魅了する可憐さとなって、咲いていた。


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