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永遠 ♾️ バディ無双 〜爆弾娘と不器用勇者の旅〜  作者: アキなつき
第五部 無双のスローライフ〜人助けと共に〜
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第78部 苛烈さは、愛せるのか?


寄り添う杖の大浴場は、たゆやかな湯気が舞っていた。


フレアは扉を開け、予想通り誰もいないのを確認して一息ついた。

自分の腕を見る――

ガリガリだ。骨って言われたほうが納得できる。


ケルトン釜の美人女将と呼ばれていた時は、遠い昔に思えてしまう。


「窯をつくろうぜ?!」


ユウトのその一言には、正直、胸が躍った。土がほとんど取れそうに無い、デュランダルト。


"ダンジョンの土で焼物を作る"

今まで誰も、考えもしなかったコンセプトだった。


おそらく、世界初になる。

焼き物の産地は "土" ありき。

様々な焼物をデュランダルトで作る。


「フレアさん、この土はどうだい?」

……なかなかの土だった。

「フレアさん?これは?」

……悪く無い。

どれも悪くなくて、次々と出てくるいい土にもっと、もっとと、求めてしまった。


「ハー」

一息吐いて、浴場の湯を腕でかき回す。


なまじ、ユウトが美少年なのに、上から目線なのも良く無かった。


「言い訳か……」

常に何か、考えながらノロノロと動くユウト。


「もっとキビキビ動け!」と、つい叱責し、手まで出てしまった。


フー…。

……ケルトン釜の女将と呼ばれ、弟子も叩いて育ててきた。自分もそうやって、怒鳴られて育った。だから当たり前だと思ってた。


でも――夫が帰ってこないとわかった日から、叩かれるのは私になった。


ハー。


あの瞬間から、世界の重さが変わった。



ーー湯をかき回す。

絶対に成功させたい。

新しい土で窯元を起こす事。

焦る気持ちと、ざわつく心。暖かい湯に浸かりながらも、落ち着く事は無かった。




夜の早い時間、寄り添う杖の食堂は、スープと焼けるパンの匂い、そして、人の行き来に活気づいていた。


ユウトは一人、お茶を飲んでいた。

(酒でも飲みたい気分だ……)


前世も含めると45歳。部活動で、叱責とかはあったが、叩かれるとかは無かった。


「はー」

相手は職人。

そういう世界だしなぁ。


「おう……ユウ坊、久しぶりだな?」

ファミリーに所属する、かつて片足だった、もう一人の石切職人、ミノックが、おれの目の前に座る。

「師匠……」

「お前も、そろそろ、師匠呼びやめろよ。周りが混乱する」

ミノックが照れくさそうに笑う。


「まぁーな、だから叩かれたのか?」

「……うん?どうした?」

おれはフレアとの事をミノックに話した。


ーーゆっくり、お茶を飲むミノック。

そして、切り出す。


「ユウ坊、お前って動きがトロいよな?」

ミノックは笑いながら言う。


「そうなの?」


「あぁ……、おれの元で修行してた時にも思った」

一瞬、目線をコップに落とすミノック。

「でも、それがお前のいいところだしな。

ただ、トロいやつは普通は職人に嫌われるんだよ」

なるほど、彼女が怒った理由が気になった気がする。


「それよりも、気になったのはさ、ユウ坊。

"助けてやってる"って上から目線になってないか??」


にぎやかな食堂に、その一言がおれの耳にひびく。


「……師匠と一緒にやっている時は、上から目線じゃ無かったよな?」

ついつい、後ろめたさを隠すような小声になってしまう。

「あぁ……師匠だったし、おれが教える側だったし」

……今も教わる側だし、何が違うんだろう。


考え込む、おれを見て、フッと口角を上げるミノック。

「おれには、答えがわかっちまった。

かしこいユウ坊より、かしこく無いおれが判る事もあるんだな?」

笑いながら、立ち上がるミノック。

「どうしても、"答え"が知りたかったら、聞きにきなよ、教えてやるからさ」

手のひらをヒラヒラさせながら、歩いていくミノックだった。


かつて、片足だった事は見る影もなく、両足でスタスタと歩き去った。

……両足か。


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