第70話 魂の叫び
扉が開いて、女性が入ってきた。
ガリガリの白髪女性。
痩せ具合が、痛々しい。
目の前の椅子に座ってもらう。
「カイラの紹介で来たんだけど、ここでいいのかい?」
「あぁ……カイラから聞いている、おれがユウトだ。ここのファミリーの長をやってる」
「助けてくれるのかぃ?」
弱々しく、笑う。
綺麗だ。こんなに痩せてなきゃ、白髪じゃなきゃ。間違いなくモテる。
「本当はみんな助けたいんだけど……それはムリなんだ。だから、話を聞かせてくれないか?」
嘘。
カイラが身を削って、この人を選別したんだ。
この人を助けないなんて、ありえない。
でも、嘘をつく……みんなをたすける無理は本当だから。
「フレアって言うのさ」
まだ、瞳のおくの炎は消えていない。
女性が語り出す。
「うちの旦那は、ケルトン釜ってところで、釜主やっててさ。ケルトン釜って言えば、イーストテリアじゃ、そこそこ名の知れてて」
右手に座る、王を見た。
うなずく。
「でもね、死んじゃった……徴兵されて、戦争でね」
おれは王を見た。顔色ひとつ変えていない。
「うちの釜のお客さんには、貴族様もいる。だから、わかるよ。戦争は必要で、守る戦いもあるって」
「でもね……最愛の夫が死んだか判らない。
戦いはおわったけど、生きているか、わかりゃ〜しない」
「兵隊さんに聞いたら
『亡くなったんだろう、残念だったな?』さ」
「そこからが地獄さ。なまじ、アタシの腕がいいから、見た目も良かったから……はじき出されて、デュランダルトの娼館にたどり着いた」
「私だって、女だよ。こんなに痩せたくないし、髪も白くなりたくない。
でもね、あの人のこと、愛していたんだよ。スヤスヤ眠れないほど、ごはんも喉を通らないぐらい……愛していたんだよ?」
静かな時が流れる。
「そうであったか……」
王の小さな寄り添うような一言。
その一言でフレアが顔をあげる。
「あんた、随分いい服着ているね、もしかして、イーストテリアのお貴族様かい?」
「貴族ではないが身分は低くない。イーストテリアの王族に連なる者とだけ言っておく!」
ここで、コソコソしないのは立派だよ。
フレアがおれ達の顔を確認のために見た。
うなずく、この人は間違いなく王族に連なる者だと。
彼女の瞳に怒りの炎が入る。
着火した。
「じゃ、王様にあったら伝えてくれ!」
服をまくしあげた。
「ケルトン釜の美人おかみ、フレアはね! こんなシワシワのオッパイで、娼婦やってるんだよ!!」
きっと、美人で評判だったんだろう。
「アタシゃ、まだ25だよ。
こんな白髪混じりで、シワシワのオッパイで、どうやって金稼ぐのさ?」
「どうやって……結婚するのさ?」
「どうやって……赤ちゃんにオッパイあげるのさ!!」
彼女の魂の怒り!!
「ねぇ……夫を亡くして、ここまでボロボロになって、国は何をしてくれるんだい??」
魂の嘆願は、小さな声で、それでも重く響いた。