第69話 魂の怒り
王とジジは食堂に戻ってきた。
フィンは仕事に行った。
食堂のいすに座った王が「フー」っと、息を吐いた。
リリスがお茶をもってきてくれる。
漂う香り。
重い心をいやしてくれるようだった。
扉が開いた。
ーーユウト視点
前世で、国王と話すなんて無いもんな。
でも、どんなに偉かろうが、結局は人。ウンコもすりゃ、オナラも出る。
さてと、頑張りますか。
食堂の扉を開いた。
ガラガラのスペースにポツンと座る二人。
「こんにちわ」
二人の目の前の椅子を引いて座る。
肥えた身体。色白の肌。
「あぁ、お主は……?」
「ここ、寄り添う杖のトップ、ユウトだ」
目が少し開く。
おれの子供っぽい見た目とのギャップか?
「なぁ、お主達はわしをどうしたい?」
「別に、殺そうともしてないし、イーストテリアを支配したい訳でもない」
「何故だ……?」
「多分……おれは小者で……そんなに沢山の人の人生を背負えないから」
おれの発言にフっと、はなで笑う王。
ザラリとする、違和感。
……その違和感を老獪な冒険者が見逃すハズがなかった。
デュランダルトが誇る、静かなるA級冒険者。
ジジ、発信!!
「何が可笑しいのですかな?」
「うん……?」
王は突然のジジの発言に顔を少し振って眉をあげる。
「何がおかしいのか、聞いているんですが?」
剣幕に、王にも熱が入る。
「ハンっ!国民の人生の全てなんて背負える訳はなかろう!!」
静まり返る、食堂。
うつむくジジ。
「……悔しいぞ」
ポツリ。
「ワシは悔しいぞ、ユウト。
……。
わしの父親はイーストテリアの兵隊じゃった。
"税金"の取り立てをやっておった」
声は小さいのにやけにひびく。
「いっつも、ガリガリでのぉー。
本人は仕事ができないからって、笑っていたんじゃが……」
ジジの目にうっすら涙が浮かんだ。
「親父は、ワザと仕事のできないフリをしとった。今年は不作。洪水があった。火事があった。取り立てにいく、家を間違えた……」
泣きながら、口元が小さく笑っていた。
「そしてな、戦争に駆り出された」
静寂。
「戦争にいく前の晩、村の人達が酒を振る舞ってくれた。
酒なんて、祭りの時や、結婚の時だけだ」
「アンタみたいな人が偉くなってくれ!
戦争で、手柄立ててくれ!」
「泣き笑いしながら……」
「“死ぬんじゃないよ!”ってな……」
キッと王の方を向いた。
「なぁ?ユウト」
「オヤジは、こんな奴のために、こんなブクブク太った、豚みたいな奴に、税金を取り立ててたのか?
こんなやつを守るために命を捨てたのか?!」
静かなる冒険者は、魂の怒りを叫んでいた。
静まり返るその空気。
ガチャ!
扉を開ける音。
*
静かなる冒険者のアドリブ。
物語はユウト達の、予想もつかない方向に進んでしまう。
到着した、カイラが放った役者。
観る人の心は休まらない。
魂シリーズ最終話。
「魂の叫び」
開演!!