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第68話 魂の訴え


所々、雲が影を作る、陽の光。

暖かいのは、この光のおかげだけじゃない。

王宮のどの部屋にもない。

のどかな雰囲気。


朝の食堂。


「私は、イーストテリア出身のジジと言います。今日は王様の付き添い役です」


デカい男だった。

白髪混じりながら、迫力が違う。

(うちの軍に欲しいな……)


さらわれた事も忘れて、呑気な王であった。


「ジジさん、こんにちは」

入ってきた男は片側に大きな爪痕。

髪は傷のところだけ生えていない。


「ああ、フィン、よくきた」

ジジは見慣れているのだろう。

王は遠慮なく痛々しさに目を背けた。


「ジジさん、この人に身の上話すりゃいいの?」

「あぁ、頼んだ」

「まぁ……お金もらえるなら、荷物持ちよりよっぽど楽だしな」


そうして、フィンはとつとつと話し出した。


王は耳を傾けた。


ーーフィンの話

おれは、フィン。

父ちゃんと母ちゃん、兄ちゃんの家族。


農家の生まれさ。


小さな家で、夏はアチーし、冬はさみーしよ。

でもさ、兄ちゃんや母ちゃんと一緒に寝るとあったかくてよ。


母ちゃんは、おれが寝返りでぶつかっても、怒らねーんだ。


3年前さ、夏が全然暑くなかったんだよ。

いやー涼しい夏は快適でよ。


でも、秋になった。

麦の実りが悪かったんだ。


「あんた、デュランダルトで一攫千金稼いでおいで!!10万エル渡してやるよ」


おれはバカだからよ、10万エルありゃ、冬も越せるじゃねーかなんて、思ったんだよ。


でもよぉ……でもよぉ……今なら判るよ。


母ちゃんの涙の金なんだよ。

どんなに苦しくても手をつけなかった涙の金なんだ。軽く笑って受け取っていい金じゃなかった。


農家の二番目なんて、一番目が元気なら出ていく以外、どうしようも無いのさ。


だから、涙の金を渡されるのさ。


そしてよ、同じ村のトーアと一緒に10万エル握り締めてよ、出てきたんだ。


「よし!久しぶりに酒飲むか?」

「ばか、フィン、そんな金じゃねーよ」


ばかなおれをトーアが止めてくれてよ。

剣買って、一緒にダンジョンに入ったのさ。


でな……それでな……バカなおれを守ってトーアは死んだんだ。


庇ってくれてよ。おれの上に被さってヨォ〜。

アイツは死んだんだ。


フィンの片方の目に涙が浮かぶ。


な、あんた。一緒にトーアのいる場所に来てくれないか??


空気が少し流れる。

王は少し戸惑った。顔は少しだけ歪んでいた。


ーーフィンに連れらてきた

薄暗い洞窟。

魔力灯が、小さい光を、ど真ん中で放つ。


「ここは?」


その青白い壁に何か模様がある。

音が吸収されるように静かに消えていく。


「眠る魂の洞窟」


「ジジさん、トーアはここで合ってるよな?」

「ああ、そうだよ」

「へへ、おれ、トーアの字だけは判るんだ」


王はフィンが指す先を見た。

確かにトーアと読めなくもない。

日付もない、小さなお墓。

模様だと思ったものは、名前の羅列。

無数に掘られた文字。


トーア……と読めなくもないその文字を王はそっと、眺めていた。




物語は、魂の怒り、魂の叫びと容赦なく、王様と、あなたの心におそいかかってくる。


つらい方は、そっと、ページを閉じて先に進んで欲しい。


デュランダルトが誇るA級冒険者、カイラの放った役者が火を吹く。


渾身の魂シリーズ、第二幕。


開幕。

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