第66話 戦争の勝敗は?
イーストテリア王の間。
カツカツカツカツ。
王の指が椅子の肘掛けを叩く音が、静寂を突き刺す。
「どういうことじゃ……」
低く、地の底から這い上がるような声。
「はっ、申し訳ございません!」
一人の家臣が頭を深く下げる。
「謝れと言っておるのではない!!どういうことかと聞いとる!!」
その一喝に、空気がさらに重くなる。
――戦の準備を宣言してから、二週間。
上がってくる報告は、
「食糧が三倍の値に跳ね上がった」
「剣がどこにも売っていない」
「鎧の素材が届かない」
そんな混乱ばかり。
カツカツ……誰だ!戦の準備を邪魔する者は!!
誰だ!?早くセントラルに攻め入らねばならんのに……誰だ!!!
バタンッ!!
勢いよく扉が開く。
「報告します!!買い占めの犯人が判明しました!!」
礼を忘れて飛び込んだ家臣を咎める者は、誰もいなかった。
喉が鳴る音が、室内にこだまする。
「リオン商会の商人、マルネロなる者の仕業です!!」
……一瞬の静寂。
そして、ブチッ――切れる音。
「その者を、ここに連れてまいれ!!
世が自ら、落とし前をつけてくれるわ!!!!」
ーー半年前の、香水事業のキックオフミーティング
マルス、マルネロ親子、エクシー、ダンが集まった仮拠点。
「皇帝殺し……?」
ダンの小さな声に、昼間なのに部屋の空気が一瞬で凍りつく。
「ああ、約半年後にセントラルで香水の販売を始める。そのタイミングで――」
おれは、事前にエクシーと詰めていた計画を説明した。
「ネロと接触……?」
マルネロが気づく。
「ああ、殺す。」
セントラル出身の三人。人づてにもネロの極悪ぶりは知っている。異論はない。
「その後は……?」
ダンが息を飲む。
「殺しの準備が整ったら、前第一皇妃に後始末を頼む」
……無音。
どれだけ時間が経っただろう。
「あきれたな……とんでもない話をしてるのに、できない未来のほうが想像できないよ。」
ダンが静かに笑った。
「ええ、絶対に殺す。」
エクシーの真顔が、氷より冷たかった。
また、無音が部屋を支配する。
「それは、成功するとして……じゃが、皇帝を殺せば、イーストテリアが間違いなく戦争を仕掛けてくる。」
マルスは、深い悲しみをにじませて言った。
愛する家族、妻たち、そして親子の故郷。戦火に巻き込みたくない気持ちが溢れていた。
おれは、ゆっくりと口を開いた。
「マルスさん、昔アンタに預けた1000万エル、いくらになったっけ?」
「おお、ユウ坊がわしの命を救ってくれたお礼の1000万エルか。あれは……頑張って運用して、今は3億エルになっておる。」
いけるか――多分、いける。
「マルネロ、おれの故郷には、未来の買い付けを約束する“先物契約”って仕組みがある。」
「ユウトさん、まさか……?」
「わかるか? 金はある。戦争のタイミングもわかる。……あとはどうする?」
その場にいた全員が、息を詰めた。
さぁ……
戦争は兵士だけでやるもんじゃない。
金と物流と、裏の駆け引き――
「教えてやろうぜ。戦争の、ほんとうのやり方を」