第5話 旅路の方針はお酒とともに
宿の食堂は、程よい暗さと、おだやかな喧騒。
目の周りが赤く、泣いた後の二人。ただ、仲直りした後のような晴れやかな表情をしていた。
「カンパイ……」
小さなテーブルの上でグラスをかさね、日本語で会話する。
フワッとブドウの香り。
「うまいな、おれ、ワインはあまり詳しくないけどさ……」
チーズにワインが合う。
「ユウトさん、お酒は二十歳になってからですよ」
クスクス笑うエクシー。
グラスの縁を指で撫でている。
「ーー中学生が背伸びして飲んでるみたいで、可愛くて」
……その言葉にニヤけないように顔を取りつくろう。
「まぁ、いいさ。『オッサン坊主』とか、呼ばれていたし」
「えぇー」
さらに笑う。
「エクシーはお酒はにがて?好き?」
「そうですね、結構いけますよ」
じゃ、飲みながらの旅も楽しそうだ。
おれのグラスに彼女が優雅にワインを注ぐ。
「ユウトさんは、この後、どうしたいとかあるんですか?」
「どうだろう、うまい飯食って、たまに飲んで、でも何か仕事はしたいかな?」
「仕事、したいんですか?」
「ああ、暇なんてロクなもんじゃないぞ」
また、ワインを口に含む。
心地よい酔いが回る。
「エクシーは何かやりたい事はあるの?」
「私はその、暇なので、良ければ一緒についていきたいです」
……一緒についていきたい?……悪い気はしなかった。
その時、気づく。
「左腕治したいんだよなぁ」
「『セイントキュア』で……治しますか?」
回復魔法のすごいやつ。セイントキュア。
「使えるのか?」
エクシーの目がキラリと光る。
「使えると思いますか?魔王の分身に?」
「だよなぁ〜」
エクシーがすかさず聞いてくる。
「ユウトさんは、使えないんですよね?」
「『ローキュア』までは使えるんだがなぁ……」
(寸考)
「じゃあ、ダンジョンで『セイントポーション』狙いですか?──最上級の回復薬、ですよ」
「それしか……ないか」
だいぶ酔いが回ってきた。
「エクシー、結構つよいよな」
「はい、私は強いですよ」
お酒もつよそうだ。
「あ、お酒じゃないよ」
「ふふふ、判ってます」
(沈黙)
「たぶん、世界最強に一番近いかも」
……息がつまる。せかいサイキョー?
お酒飲んでる時ぐらいビックリさせないでくれ。
「ユウトさんなんて、本気出したら、指でアリを潰すみたいに……プツって」
キレイな指の先で何かをつまむような仕草をする彼女に引きこまれた。