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第58話 束の間の“バディ”


小高い丘の上。

赤い壁の街が、ぐるりと城壁に囲まれている。

セントラルの東に位置する大国――


『イーストテリア』。


寄り添う杖から、まさにモデル級の二人が香水の販売員に転身する。


ダン & エクシー。

束の間の“バディ”。


「本当に便利だね、転移魔法って」

ダンが感嘆の声を上げる。


「じゃあ、行きましょうか?」

エクシーが艶やかに微笑む。

「エクシーさん、僕が部下なんですから、敬語は不要ですよ」

ダンが軽く返す。


「そうね」

即座に切り替えるエクシー。


「本当にユウトさんを置いてきてよかったの?」

「ええ……少しくらいヤキモキしてるほうが、可愛いわ」

貴族風の柔らかい語尾に、ダンは思わず小さく呟いた。


「……いいなぁ……」


二人は街道を歩くこと、およそ二時間。


城壁をくぐり、賑わう街へ足を踏み入れる。


「どちらへ向かわれるのです?」

エクシーは貴族言葉を絶賛練習中だった。

しかし――似合うな、とダンは思う。


「今回は社交界に紹介してもらうんだ。

『トビーイシー伯爵』だよ」


エクシーは心の中で「飛び石伯爵」だなんて……と小さく笑う。

そうでなくても、イーストテリアにいる間だけ覚えていればいい。


屋敷の門前で、衛兵に手紙を渡す。


「さて、明日また来ましょう」

「ええ」


二人はそのまま街を後にした。


ーー翌日


トビーイシー伯爵の部屋へ通される。


「君たちが、香水の販売員かね?」

伯爵は特に印象に残らない、覚える必要もない顔をしていた。


「はい、伯爵。こちらが『リオン商会』の商会長、エクシーです」

「初めまして、伯爵。

――エクシーと申しますわ」

その美貌に、伯爵の目が大きく見開かれる。


空気が一瞬、止まる。


「……ゴホン。私がトビーイシー伯爵だ」


ーー1時間後


小さく息を吐くエクシー。


「うまくいきましたわ」

「はい、手紙に忍ばせた香水と、試供品の一本が効きましたね」

ダンの口元に笑みが浮かぶ。


期限は三ヶ月後。


「ドレスの仕立て、香水の調香45本、そしてダンスレッスン……」

ダンが言うと、エクシーの表情が引き締まる。

「調香は、だいたい仕上がってますわ」

「でも……ダンスレッスンと、あれ?貴族の階級、わかりますか?」


首を振るエクシー。


「ああ……そこからか。じゃあ、必要な知識を叩き込まないと」

ダンの鼻が少し高くなる。


「それにしても、トビーイシー伯爵に『ドレスの流行』を確認しておいてよかった」

「三ヶ月で間に合いますか?」

「仕立て屋の状況次第かもね……」


仕立て屋へ向かうと――


案の定、「あいにくですが、立て込んでおりまして」と断られる。


「どうしよう……」

ダンの顔が青ざめる。

「マルスさんに相談しましょう」


エクシーとダンは足早に街を出る。


「そっか……転移魔法があるんだよな……」

ダンがわけのわからない独り言をつぶやく。


ーーーデュランダルトの転移場所


「急ぎましょう、エクシーさん! うまくいけば今日中に目処がつきます!」

太陽は真上に差し掛かろうとしていた。


今日中に――?

走りながらも、エクシーの目に笑顔のダンが映る。


マルスは――ギルドの裏手にいた。


「マルスさん! 僕に奥さんを紹介してください!」


一瞬、無表情になるマルス。


「……ドレスか!!」


マルスの声が、デュランダルトに響いた。

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