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第56話 リオンの研究での旗揚げ


ーー半年前、ミノックが来る前の仮拠点に時間はさかのぼる。


「この時間は、誰も来ない。ミラベルには席を外してもらった」

おれが言うと、場の空気が少しだけ重くなる。


マルス、マルネロ親子。それにエクシーとダンの顔を見渡す。


「マルスさん親子とエクシーさんが呼ばれたのはわかるけど……僕だけ、なんで?」

ダンが、重苦しい空気を和らげようと軽い調子で尋ねた。


「もともと、ダン君はファミリー構想に欠かせない人だったからな」

ただのイケメン、チャラ男ではない。


ダンは少し首を傾げて固まった。


「後で詳しく話すけど、ダン君は貴族社会にとても詳しいよな?」

おれが言うと、彼は少し誇らしげに笑う。


「勉強したからね。セントラルの貴族全員の名前と家族構成、全部頭に入ってる」

……その言葉に、おれは心から安心した。


「だよな。隣の国は?」


「隣の国もまぁ……ほぼ把握済みかな」

得意げに笑う。


これが、ダンをファミリーに引き入れた最大の理由。


彼は『貴族社会の生き字引』。

この世界に社会という科目があったなら、間違いなく『公民』の先生。


ファミリーと貴族社会を繋ぐ架け橋。

それが、ダニエル・アストンという男だ。


「ユウトさん、貴族相手に商売をするんですか?」

マルネロが食いついた。


さぁ、お金大嫌いなマルネロ君。

金の匂いしかしない貴族たちを、どう料理してくれるんだぃ?



「そう、貴族相手にこれを売る」

エクシーから小瓶を5本受け取る。


「これは……?」

マルスさんが気づいたようだ。


「香水だ。しかも、全部違う香り」

空気が止まった。


「5本も……? 一本でも珍しいのに……ユウ坊、どこでこんなものを?」

マルスさんの問いに答えず、続ける。


「さらに、これがレシピだ」

エクシーが瓶の横にレシピの紙を並べる。


三人は目を見開いた。


「そして、さらに――」


コトリ……パラ……もう一本、レシピ。

コトリ…………もう一本、レシピ。

次々と出される香水とレシピ。

10本目を出そうとしたとき――


「ちょっと待ってください……」

マルネロが制止する。

「おぅ、そうじゃな……ユウ坊」

「ユウトさん、いったいどれだけ持ってるんだよ」

ダンも驚いている。


「ふふふ……持ってる数は、百以上……」

エクシーが小さな声で怪しく笑う。


……しん、と針が落ちるような静寂。

みんなが小瓶とレシピを交互に見つめ、息を詰める。


「どうだ?」

おれは9本の香水を嗅ぐ面々に聞いた。


「多分、どれも貴族が欲しがるよ」

生き字引、ダン君のお墨付き。

「そうじゃな……悪くない」

マルスさんも頷く。


「これ、一本いくらで売れる?」

試しに聞いてみる。


「うーん、数百まではいかないが、30〜40万エルは固いと思う」

マルネロの言葉に、エクシーが目を見開く。

「妥当じゃな」

「悪くないと思う」

マルスさんも、ダン君もお墨付き。


「なぜ、そんなに高いのですか?」

エクシーが理由を尋ねる。


「まず、これを“正確に”作れる人間は限られている。

読み書きや計算ができなければ、香りの再現すらできん」

マルスさんが説明してくれる。


「あとは、そんな人材を不確かな物に回す余裕がない」

マルネロが続ける。

「測定道具も統一されていないからな」

マルスさん。


「これが同じ物として量産できるなら……」

促すように視線を送る。


「間違いなく……売れる!!」

マルスさんが力強く言った。


さぁ、魔王の香水レシピで、はた揚げだ。


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