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第55話 鎮魂の調香部屋
エクシー。
ガチャ。扉を開けた。
ふう……一息吐く。
「ただいま」
帰ってこないはずなのに、思わず声に出ていた。
友人であり、母でもあり、分身でもある。
魔王――通称レオン。本名リオン。
彼女の調香部屋。香水を作る部屋。
カーテン、窓を開ける。
差し込む光。優しい風。
キラキラとホコリが舞い、光の屑のようだ。
丁寧に、ゆっくりと埃を取り除いていく。
「できたよ、エクシー!」
その時の彼女の顔が浮かぶ。
まったく、作りに作って、1000レシピ。
よくもまぁ、あれだけ作ったものだ。
口角が少しだけ上がる。
この場所を、2年も経たずにまた開くことになるなんて、思いもしなかった。
胸に残る、温かさと痛みの割合――
それだけは、ユウトさんにも内緒の、私だけの秘密のレシピ。
陽の光を反射するガラス瓶から、
するはずのない――あの頃のにおいが、ふわりと立ちのぼった。