第48話 助けるために立ち上がる
1週間後、おれはミノックをおぶって南の石切場に連れてきた。エクシーとは別行動。
「おい、ロックワームは本当に大丈夫なんだろうなぁ……」
「ああ、大丈夫さ。さっきも言ったけど、退治した」
顔が曇るミノック。
そんなに簡単に倒せるなら……想いは簡単には拭えない。
彼を石に腰掛けさせる。
「それで、なんだい? おれに頼みたいってのは?」
少しだけ険しい顔。
「……まぁ、見てくれ?」
練習の成果!重力魔法。
フワフワフワ〜。
石を持ち上げて、手を離す。
「っ? なんだそれ?」
目を見開くミノック。
「簡単に言えば、重さを無くす魔法」
無言が続く。
「っすげーな! めちゃくちゃスゲーじゃねーか」
石を見て、おれの顔を見る。
「その魔法、おれにも使えるのか?」
そうなるよな。
「ムリだな!」
バッサリいく。
同情されるほうが辛い。
「なんでだよ?!」
「魔力量が絶対的に足りない。この世界でおれともう1人にしか使えない」
冷たい風が石切場の匂いを運ぶ。
「じゃ、なんで見せたんだよ」
「おれは、この魔法で、あんたの手足になれる」
「ふん、石を運ぶだけが職人じゃないさ。割れないとな」
「そこで欲しいのが、あんたの目だ」
「目……?」
「なぁ……どうすれば、どこを割れば、この石は割れる?」
浮かせた石に手を添えて、ゆっくりミノックの前に持ってくる。
「回してみてくれ」
石を両手で挟んで回す。
「ココだな! ここにノミを入れりゃ割れる」
「わかった」
おれはミノックと石の間に立つ。
……うまくいってくれよ。手のひらに汗がにじむ。
ミノックの刺した場所を境に重力を逆にかけると……
ビュッ!!
簡単に割れて、片方のかけらが吹っ飛ぶ。
「何したんだよ!?」
息をのむミノック。
「こうやって割ればいいだろ?」
「割れかたはその通りだけど……」
「今度はこっちとこっちに、逆方向に重さをかけた」
「見えない巨人の手、みたいなもんか……?」
「見えない巨人の手?」
「ああ、石切職人の間に伝わる御伽話さ……」
「確かに、おれの目とお前の『見えない巨人の手』があれば、仕事はできる」
おれは頷いた。
「おれに何をやらせたい?」
「もう一ついいか?」
「ああ、構わない」
「この石、どこで割れる?」
別の石を持ち上げる。
「ココだな!」
「魔力を流すぞ……」
「おおぅ……」
キョトンとしながらも、のってくれる。
「何か引っかかる感触が返ってくるんだ」
「フム……魔力って、あれだろ? 土魔法ってやつだろ」
「そそ、それでどこだ?」
「ココだな!」
再び指差すミノック。
「この感触の場所か……」
「で、どうしたいんだよ?」
「微妙に違うんだよ」
「だから、どうしたいんだよ?」
「アンタと修行したら、おれも魔法であんたの目を再現できるかもしれない」
言葉が出ず、喉元で何度も息を詰めるミノック。
「なぁ、おれの師匠になってくれないか。
その間、うちのファミリーで給料払う!」
唇がわずかに震えている。
「おれたちの拠点を建てるのに、アンタの力が必要だ、ミノック!
助けてくれ!」
その瞬間、ミノックの肩がほんのわずかに揺れた。
冷たい風はなぜか、優しかった。
ミノックに垂らしたロープを自分の意思でしっかりと握ってくれた。
そんな優しい風だった。




