第44話 寄り添う杖
ファミリー宣言から一週間。
ユウトたち、ファミリーの仮拠点は早めに見つかった。
キッチンにBARカウンター。
円形のテーブル席が二つ。
「お店スタイル」をそのまま利用する居抜き物件だ。
ミラベルが腰に手を当てて、プリプリしている。
「それで、なんで男性陣はのんびりゲームしてるのかしら?」
男性メンバー = おれ、ジジ、ダン、マルス、マルネロがワイワイしていた。
ダン君が答える。
「いや……これ、面白いよ。ミラちゃんも座ろうよ!」
マルスさんも笑いながら言う。
「確かにこの、ボードゲーム面白いのぉ」
真面目そうなマルネロさんもうなずく。
「親分、このボードゲーム売れますよね?」
ジジさんも無言で頷く。
おれの前世の知識を活かして開発したボードゲームは大好評。
「もう……。
ゲームは一日、1時間までにして!」
どこかで聞いたことがある、ミラベルの宣言がこだました。
*
料理が次々と並んでいく。
小鳥亭自慢の腸詰、串焼き、餃子みたいな料理は、エクシーがミラベルに教えたレシピかもしれない。
ワインやビール、グラスがずらりと並ぶ。
「じゃ、これからファミリーになる皆んなで、同じ飯食って、しゃべって仲良くいこう」
お互いの距離を近づけるためにも、大事な儀式だ。
「じゃ、『寄り添う杖』の今後の発展を祈願して、カンパーイ!」
エクシーは苦笑、マルスさんは楽しそうな顔、他のメンバーは少しきょとんとした顔だった。
決起会の文化は、この世界にはないらしい。
ちなみにファミリーの名前は【寄り添う杖】に決まった。
⸻
飲むのが好きな男連中。
ほとんど飲めないけど、文字通り「看板娘」のミラベル。
そこそこのエクシー。酒豪カイラ。
酒が進むにつれ、あちこちで自然と会話が生まれた。
「あそこ、仲良くなったな」
ダン君とミラベルが話している。
「ミラベルが『眠る魂の洞窟』にいるときに会いに行けって、ジジさんに言われたみたい」
……あそこにいるときのミラベル、なんか聖女みたいな雰囲気あるよな。
ジジさんとマルスさんは爺トークで盛り上がっている。
「マルネロさん、久しぶりだな〜」
ソロバンを教えた時以来だ。
「あぁ、ユウトさん、久しぶりです。呼び捨てでいいですよ」
「はいはい、お母さんたち元気?」
「……実は相談がありまして」
マルネロが少し視線を伏せる。
「うん……?」
「母達、皆、落ち着いたら移住したいって言ってます」
あぁ、そりゃそうだよな。親分のそばにいたいに決まってる。
「すぐじゃなくてもいいけど、余生は一緒にって……」
申し訳なさそうに言う。
「今、何人だっけ?」
「変わってませんよ、五人です」
フローラさん、セレナさん……指を折って数える。五人。
で、今のメンバーがおれを含めて八人。
合わせて十三人。
「大丈夫ですか?」
エクシーが心配してくれる。
「おおぅ……」
「ユウくん、拠点の話?」
カイラがニヤニヤして近づいてくる。
「孤児院も作るんだよね?集合ベッドに、プレイルーム。
あ、食堂とお風呂も欲しいな」
「未亡人向けの作業場も作るって……」
マルネロもしっかり覚えていた。
ちょっと待てよ。
居室40人分に、キッチン、食堂、風呂に教室に……。
そんな建物、どこにある!?
……作るしかないじゃん……いくらかかるんだよ、これ……。
「はぁーー」
思わずため息が出た。
「ッヒャっ」
背中に冷たい感触が落ちて、思わず身体が跳ねる。
振り返ると、エクシーが笑っている。
「ダメですよ……リーダーが暗い顔は」
クスクス笑いながら、魔法で水を一滴垂らしたのだと告げる。
無駄に高度な魔法を。
一滴だけ垂らすのは、蛇口でやるより難しい。
「ッヒャっ」
また落とされた。
カイラがマルネロの後ろでささやく。
「あれ、普通の関係じゃないから……羨ましがったら、ヘキ歪むからね?」
やめろ、マルネロはまだ成人したばかりだぞ。
「ッヒャっ」
(……これがテンプレじゃない、うちのヒロインかよ……)