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第42話 始まりはレシピと共に


理想から現実の切り替えが早いのはマルスだった。

「何から始めるんじゃ?」


「まずは拠点作りさ」


「たしかに、それが自然じゃな」


「費用はどうする?」


しばし、思考。

「おれが全額出しても…とは考えたけど、それじゃみんなと対等じゃないだろ?」

みんなの顔を見る。いきなり請求されても困るって顔だ。


ダン君が口をひらく。

「そんなにお金出せないぞ」


ミラベルが続く。

「そもそも、いくらかかるの?」


どうすればいい?

おれはエクシーの顔を見る。微笑みながら、小さな声で。

「もぅ…」


「まずは普段の仕事をしながら、どこか借りた拠点に集まりましょう?」

「それが妥当じゃな」

ジジさんがうなずく。


「じゃ、簡易的な拠点は借りるとして、本拠点はいずれ」

「ボクは全然構わないよ、娼館の仕事もあるし」

「ワシとダン君も宿とダンジョン探索があるから問題ないぞ」


マルスさんは?

「そうじゃな、ユウトさんの故郷からの『商売ネタ』とか、後で教えてもらえんか?」

これはおれもお願いしようと考えていたので、うなずく。


ふてくされた顔のミラベル。

「ユウトさん、私、ギルド辞めてきたんだけど?」


しばし、解散。


ーーこれから、居残り授業を受ける生徒のようなユウト。

エクシーとミラベル以外の全員が退室していった。


「それで、どうしますか?」

エクシーの顔がこわい。さっきは助け舟を出してくれたのに。


「いいよ、ユウトさん。本拠点が決まるまで、ギルドで働くわ」

「いや、悪いって、おれが給与出すよ」

会話が止まる。


「ユウトさん、それって何か違うと思うわ」

「あぁ…ファミリーだもんな」

「そうよ、ファミリーよ」

正当な対価としてのお金。


クスっとエクシーが笑う。

「ミラベルさん、料理はできますか?」

「ええ、小鳥亭の母さんの子だもん。あそこまでの腕はないけど、できるわ」


エクシーが優しくおれの方を向く。

「ユウトさん、ネット社会で忘れられてますけど、料理は立派な『生きる術』ですよ」


…あっ、そうだ。

エクシーは、元“料理研究家”。ただの魔力量1億、寿命1000年じゃない。


「ミラベルさん、私の持っているレシピを受け継いでもらえませんか?」

「エクシー、料理もできるの?」

「はい。故郷の料理は少し変わっていますが、クオリティは高いですよ」

「へー」

さすが料理屋の娘。レシピと聞いて顔色が変わる。


「なぁ、ミラベル、料理を教えることもできるか?」

「えっ…」

「いずれ、ファミリーには冒険者に向かない若手が入ってくる」

「あっ」と言って下を向く彼女。


「冒険者は誰でもできることじゃない」

さらに固まってしまう彼女。

あれ?これじゃ、俺が怒っているようだ。


「どうした?」

「ユウトさん、私、救ってあげれば良かった…」

「え…?」


「たくさんの新人の冒険者が亡くなっていった。明らかに向いてない人もいた…」


「一人でも、『私が料理教えるから、冒険者になるのはやめなよ』って言えば良かった」


「せいぜい『カイラの店』があるよって、伝えるくらい…」


おれの心もスッと、酸っぱくなる。


「しょうがないさ。こういうのは俺の故郷では『灯台もと暗し』って言って、あかりの下は暗い。

当たり前にあるから、逆に思いつくのは難しいのさ」

エクシーがミラベルの肩にそっと手を置いた。


しばし静寂。


ミラベルの顔が上がって目が合う。

「なぁ、ミラベル。お前が講師役になって、そんなシステムがファミリーにできたとする」

「ええ…」

「そしたら、将来的におふくろさんが店に立てなくなった時」

「あっ…」

「ファミリーで面倒見てやるさ」

ミラベルの顔が切なそうにゆがむ。

でも、それが切ないだけの顔じゃないことが、エクシーとユウトにはわかって、一緒に笑う。


ーーその夜

ミラベルは寝つけなかった。


少しの不安とワクワクで始まった。


自分の一言で、ユウトさんが動き出した。

何か変わるんじゃないか?

そう思って、安定した職を辞めた。


そこで、役割がない!なんなの!

…怒ってしまった。


そこからは、もう何が何だか?


思わず、顔の筋肉がやわらぐ。


「だって、母さんのレシピ、残したかったんだもん」


女手一つで育ててくれた母さん。


「お店は大変だから、あんたは座ってできる仕事をしなよ」って言ってくれた母さん。


そんな母さんの料理の全部が大好き。


これからは、ファミリーでひっくるめて引き受けてあげるわ。

親孝行させてね。


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