第39話 このメンバーに教わるんだぜ?
俺の言葉に、場の空気が固まる。
そんな空気を、姉さん女房がそっとほぐす。
「ふふふ……ユウトさん、それじゃ具体性がゼロですよ?」
エクシーが微笑みながらマルスに視線を向ける。
「マルスさん、私が説明しますね。
この人は、“人助け”がしたいんです。
それを、少しずつ積み重ねて――“世直し”がしたい」
マルスがうなずく。
「じゃが……具体的には?」
面々が、息を飲んでエクシーの言葉を待つ。
「ファミリーを作るんです」
その一言には、揺るぎない自信――いや、覚悟がにじんでいた。
「ファミリー……?」
ダン君が首をかしげる。
おれが答える。
「そうだ、ダン君。誰もいない宿に帰るとき、寂しい夜があるだろ?」
「……」
「カイラ、お前の店にも、寂しさを埋めるためだけに来る客がいるだろ?」
カイラが小さくうなずく。
「……あは、よく知ってるね。話だけしにくる人、いるよ」
「ミラベル、誰かが亡くなって、眠れない夜……カウンターに立つこと、あるよな?」
彼女は小さく頷く。
「マルスさん、アンタも次の世代に何かを託したいはずだ」
マルスは静かに考え込む。
「ジジさん、その技、墓場に持っていくには惜しすぎるだろ?」
「……そうじゃな」
「だから、ファミリーを作るんだ。みんなで住んで、助け合うんだよ」
「……ボクだって、ひとりになりたくない時もあるし」
カイラが笑顔で言う。
「そのファミリーの拠点に、孤児院を作る。
そして、作業所を併設する。もちろん、戦争未亡人向けさ」
構想段階だけど――。
「想像してみてくれ。
この孤児院の子供たちが、このメンバーに教わるんだぜ?
立派にならないわけ、ないだろ」
「ある者は商人になり、困った人を助ける。
ある者は貴族お抱えの執政官となり、政治で人を救う。
ある者は一流の冒険者となり、若者を守る……」
これだけの面子だ。
全員、一流に育つだろう。
「そして、誰かが誰かを助ける輪が、ここから広がるんだ。
少しずつ、だけど……世の中が変わる。
それが、俺のやりたい“世直し”だ」
気の長い世直し。
その“気の長さ”をかみしめるように――場には、静かな希望が流れていた。