第4話 本当の始まり
きれいな物もきたない物も、さびしさに染める。そんな夕日がさす中庭。
ユウトが生気のない顔で佇む。
おれは頭をなぐられたように、話の途中から、耳に入ってこなかった。
フラフラと、なぜかここにいる。
エクシーから教えてもらった事。
「仲間に殺された」
よりによって、その日に!!
井戸の中をのぞき込む。
目線が合わない。
力が出ない。
地面に座り、井戸のふちを背もたれにする。
ーー日本からの突然の召喚。
チートな身体能力と魔法。
右腕の "剣"
面白いぐらいに簡単に魔物は切れた。
左腕の"魔法"
人の何倍ものスピードで放った。
遠くの敵も怖くなかった。
助けたあの娘の笑顔。
作戦成功後のビール。
そりゃ、辛い現場もあった。
虐殺、強姦、種床、生贄、捕食。
魔物に人がゴミのように扱われ、尊厳もない。
吐き気。
トラウマ。
血のり。
臭気。
なんとか、救いたかった。
帝国セントラルをこの世界を。
その見返りが"片腕"
そして"死"
ーー夜の帳が下りて、エクシーは心配になって、ユウトを探していた。
「大丈夫ですか?」
声が聞こえる。
「ああ、大丈夫だ」
「外の空気吸ってくるって、戻ってこなくて……どうしたんだろうって」
小さく笑う彼女に気づく。
彼女は、自分の大事な人を殺した相手を気遣う。
そんな事、させちゃダメだな。
「ありがとう、もう大丈夫だ」
「そうですか、良かった」
ただの笑顔じゃないが、ありがたかった。
「最初から、終わったらのんびり暮らしたかったんだ……名誉も金もいらない……のんびりスローライフさ」
少し笑顔になる、彼女。
「そうだったんですね、よかっ……ふふふ」
少し頭が回ってきた。
「なぁ、もう一度聞かせてくれ、おれは何で生きてる?」
「リオンと私の寿命をわけて、この世につなぎ止めました」
……つなぎ止めた?。
ああ、そんな事言ってた。
「最後にひとつだけ……聞きづらいけど、確認しておきたい」
「はい」
「君やおれが魔王になることはあるの?」
(間)
彼女の瞳が、ゆっくり細くなる。
「……それは、最初で最後だけ言います」
その言い方に空気が凍った。
「最初で最後だけしか、言いません。
魔王は『呪い』であの人だけのものです。どれだけ、一緒に背負えればと思ったか……」
その剣幕に押されてしまう。
「……ごめん」
ーー呪いか……。
凍った空気を流すように、春の風がおれの頬を撫でた。
彼女の表情が、元に戻り、最後の大事なものを差し出すように口を開く。
「リオンの遺言、聞いてもらえませんか?」
「遺言?」
「ええ……多分、黒髪の勇者くんは、日本人だからって……」
彼女の目に涙……。
口を結んでいる。
こみあげてきた感情が溢れないよう。
「む……」おれの言葉に交差する。
「……お茶目な人なんです」
小さな声。
ふー、彼女の一息。
「いきます……やっほ〜勇者君、私を殺してくれてありがとうね。
もぅね……1000年も生きたんだよ」
ーーあまりに場違いな、「やっほ〜」って、それを忠実にモノマネしているエクシー。
モノマネを一緒懸命やっているエクシーを見ていたら、自然と目に涙が……。
それが彼女に誘発する。
「魔王の役割……も……ウゥ……飽き……ウゥ……」
堰を切ったように、涙がこぼれる。
彼女の心が、あふれる。
「……ごめんなさい」
哀しみ、声にならない、口の形だけの謝罪。
おれは抱きしめられた。
泣いてる、彼女の心。
そっと抱きしめ返した。
ーーーー
エクシー。
君が言いたかったテンプレ通りじゃない物語の始まり。
魔王を殺して
左腕を無くして
仲間に殺されかけて
分身の君に出会って
君に陥落させられ
旅に出た
おれたちの革命前夜。
すべては、この時から始まったんだ。
今なら、わかる……。