第34話 ダンの夜と最強への道
「へ〜、ユウ君にそんな事、言われたんだ」
カイラは、客として来ているダンの愚痴を聞いていた。
「そうだよ、本当に何様だよ」
「あはは、ユウ君いいそう」
「あいつのこと、知ってる?」
「うん、この前、あった」
……カイラはここにきた美少年を思い出す。
「変なやつだろ、オッサン坊主」
少し真顔になったカイラ。
「アハハハ、本当だ、なんでボクもその“あだ名”気づかなかったんだろ」
「カイラはどう思う?」
「それは、お金もらってる身として?」
ジッと、ダンを見つめる。
「それとも、裸のお付き合いの相手として?」
しなだれかかる、カイラ。
「うーん…両方」
「しょうがないなぁ……これから、同僚になるかもしれないから、サービスだよ」
(同僚になる……? その言葉がダンの胸に小さな棘のように刺さる)
「お金もらっている身としては、ユウくん何様だよね?ダンのこと、何もわかってないよねが、正解」
……カイラといえど少し躊躇した。
「でもね、裸のお付き合いの相手なら、ユウくんの言い方は別にして、図星でしょ?」
「いや……僕だって、何もせずにここまできたわけじゃない。
B級に上がるまでに、仲間を失いかけたこともあったし……」
ダンが取りつくろう。
「その時はね……で、今は何に頑張っているの?」
何かを言いかけて、でも飲み込むように黙った。
カイラは一拍置いて、ふっと笑った。
「……言い訳つけるのは簡単。でも、自分の弱さを見つめるのは……はい、サービスはここまで」
そう言って、カイラは試すように、でも優しく、ダンを抱きしめた。
その温もりに、彼の中の「強がり」がひび割れていくようだった。
ここで、温もりに溺れて逃げるようじゃ、ユウくんの計画には必要ない。その時は依存させて、たっぷりとお金を絞りとってあげよう。
ーーダン
「……言い訳つけるのは簡単。でも、自分の弱さを見つめるのは……」
そんな言葉が、カイラの温もりの中で、ずっと頭の中で鳴っていた。
「……できるわけねーだろ」
声にならない声が、喉の奥で震える。
本当は、ずっとわかっていた。
逃げるように笑って、楽しいふりをして。
でも今はまだ、怖い。
……でも、ほんの少しだけ、何かが動き出した気がした。
ーーユウト
朝、両方の腕で伸びをする。
左手があるだけで伸び一つも違うのか……。
魔力測定器を握る。
RPGゲームでアイテムのストックを見る子供の気分だ。
181日目:68,319,477(約6,800万)
普通の魔法使いが3000〜5000の魔力だから、化け物の領域だ。
182日目:71,735,451 (約7,200万)
183日目:75,322,223 (約7,500万)
184日目:79,088,334 (約7,900万)
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188日目:96,132,363 (約9,600万)
いよいよ、今夜の魔力供与法がラストだ。明後日の朝に俺は魔力1億超えだ。
「ユウトさん、よく頑張りましたね。今日の魔力供与がラストですね」
エクシーが淡々と話す。
「エクシー、楽しみが一つ減ってしまうな?」
「何のことですか……?」
エクシー、いつも魔力供与中、嬉しそうだもんな。絶対に認めないけど……。
「それより、ユウトさん、部屋とかとってないですよね」
「……」
忘れてた、1億達成したら、いちゃいちゃ解禁だった。
ここのところ、重い話続きで、そういうムード無かった。
「どうせ、そうだと思いました。
これからの計画も、思いつきはユウトさん。実際に動くのは私でよろしいでしょうか?」
……前世でも言われたんだよな。大きなプロジェクトを動かしているかと思えば、細かいポカが多いって。
「尻に敷いてくれよ……」
「恐妻家みたいに言わないで下さい」
そう言いながらも嬉しそうなお姉さんスマイルだった。