第33話 できるやつできないやつ
ジジさんに、おれの蘇った腕を見られた。
「俺の腕もなんとかならねーか?」
と、もちろん、聞かれる。
エクシーに小声で確認する。
「エクシーのお姉様?ーーギガントメガオーガを俺たちより先に殺せましたね?」
「はい……なんのことでしょう?」
棒読みのセリフみたいに返される。
なんちゃら雪の女王の魔法で一発でしょうが。
「ギルティ!!証拠はあがっていますが、もし……このセイントポーションをジジさんに譲ってあげるなら、その罪を見逃しても良いですよ?」
「仕方ないです……泣くな泣く譲ります、というよりユウトさんの物なので、好きに使ってください?」
という茶番があり、俺たちの“計画参加”が条件で、セイントポーションをジジさんに譲ることになる。
むしろ、計画参加は二つ返事だった。
「腕が戻ったぁ、これで、アイツとあいつにも、付き添ってやれる……」そう言って喜んだ。
ーー小鳥亭
「で、ジジさんに頼まれて、きたんだけど、イケメンに待たれてても、あまり嬉しくないんだが……」
「そんなこと言わずにさ」
ダン君が苦笑いする。ちくしょう、イケメンスマイルだ。
「あ、じゃ、私はカイルのところに行ってますね」
エクシーが気を使って、席を外してくれる。
「おぅ!」
おれは、ダン君の隣に腰掛け、ビールを頼んだ。
「……」
親友でもない男同士なんて、会話が続かない。
「カイルって?あのNo. 1?」
イケメンのダン君が先に口火を切る。
「ああ……」
「人気だよな、僕も一度、お世話になったことがある」
ああ、有名なのかーーじゃなくて。
「ジジさんから、ダン君の話を聞いてやれって言われたよ」
目線をグラスに合わす……。
「僕もさ “お前はこのままじゃ、絶対に事故る“ って。
だから、オッサン坊主に話を聞いてもらえとさ」
オッサン坊主って、俺のことか?
確かに、中身は転生者45歳だけど。
「見た目は少年、中身はオッサンってことか??」
「じゃないか?」
まぁ、いいか。事実だし。
「……で、どうした?」
「なんか、やる気がでないのさ。何をしてもつまらない」
なるほど……そんな感じはした。
「こう見えても、割となんでもできるのさ。ダンジョンもB級にいけるし、お付き合いしている女性も二人いるし……」
「なるほど……悩みが無いのが悩み?」
「そそ……まぁ、楽しいんだけどね、金稼いで、女の子とワイワイやって」
「そか……だったらいいじゃないか?」
「でも、ジジさんも、ミラベル君も言うのさ。“今に駄目になる”って、何でさ?」
……ビールの泡がユックリと底に落ちる。
そういえば、ヌルいビールだ。
「たぶんさ、ダン君は今の生活に飽きてるのだと思う」
「飽きている?いま、楽しいって言ったじゃないか?」
「それなら、いいけど、こうも言ったじゃん、“何をしても面白くない”って……」
ーー小さくイラつくようなフォークの音
……なんだよ。おれに八つ当たりするなよ。
いいじゃねーか。器用で楽しけりゃ。
「いいと思うよ、でも、それって人生かねー」
……大人気なくあおる。
「どういうことだよ?」
ダン君にも熱がはいる。
「楽勝の事ばっかりやってて、それって人生かねー?」
「いいだろ、人より上手にできて何が悪い?」
「じゃ、人より上手にできなくなったら、歯を食いしばれるのかよ?!」
「ああ、できるさ?!」
「できるわけねーだろっ。やったことないやつによ。オメーは才能だけで生きてる甘ちゃんだよ」
「なんだとぉー?」
「……」
ダンは言い返そうとして、口を開いたが、声が出なかった。
“ぶきっちょ”“下手くそ”って言われながら、こっちが前世でどれだけ泥水すすったと思ってるんだ。
できるのにそこから、逃げてるやつが、それを愚痴るなっ!!
「たぶんさ、ダン君、器用だから、できちゃうんだよ。
そこから出なければ、できない自分を認めなくていい、そう思ってるんじゃないか?」
「……」
図星か、だよな。地雷を両足で踏んじゃった。
「わりぃ、大人気なく、きれちまったーー」
ったく、よくない酔っ払い代表になっちまった。
「最悪のタイミングなんだけど、やりたい『計画』があるんだ、力を貸して欲しい……」
俺は最悪のタイミングで勧誘する。
「最悪のタイミングだと思うね…。」
それ以上は黙って、何も聞いてくれなかった。
おれは、キレたお詫びに多めに金をおいて、小鳥亭を後にした。
「なんだよ、あいつ、何様だよ……」
グラスの底をじっと見つめる。
泡がゆっくり消えていくのを、ただ、見ていた。
(そこから出なければ……できない自分……)
胸の奥が、かすかに痛む。
ーー
「それは、ユウトさんが悪いと思いますよ」
ことの顛末を聞いたエクシー。
「はい……」
「なんで、ダン君にキレたのですか?」
「……前世の劣等感です」
「ですよね?バカですか?」
「はい、バカです……」
「ちょっとエクシーさん、お手柔らかに、ライフはゼロです」
「大丈夫、泥水すするのは、これからです」
……はい。こってり絞られました。