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永遠 ♾️ バディ無双 〜爆弾娘と不器用勇者の旅〜  作者: アキなつき
第三部 次の無双の前の静けさ
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第29話 ミラベルの物語


ーーこれは、ギルドの受付嬢である私の物語。


両親は冒険者だった。

私が五歳のとき、父さんはダンジョンから帰ってこなかった。


……胸を締めつけるような記憶。

ありったけの涙を流す母さん。


残された母さんは『小鳥亭』を開いた。

当然のように、そこは私の遊び場で、

お客さんの冒険者のお兄さんお姉さんたちは、みんな優しかった。


「ミラちゃん、ミラちゃん」

そう言って、頭を撫でてくれる手が大好きだった。


強くて、かっこよくて、やさしくて。

無骨でゴツゴツした手に、私はずっと憧れていた。


「私、冒険者になる!」

そう言ったとき、母さんの顔がくずれた。

優しく、でも泣きそうに。


「……父さんの職業に就きたいってね、言ってくれて……こんなに嬉しいことはないんだよ」

ぎゅっと抱きしめる母さん。


「でも、それ以上に……私はアンタまで失っちゃったら、生きていけないのさ……」


その震える声が、今でも胸を酸っぱくさせる。


結局、私はギルドの職員になった。

そして、母さんの言葉が、あとになって痛いほどわかった。


仲が良かったあの人も、あの人も、ダンジョンで命を落とした。

「ミラちゃん、ミラちゃん」と呼んでくれた人たちも、いつしか減っていった。


いつの間にか、私を「ミラちゃん」と呼ぶ人は、誰もいなくなった。


そんな空気を埋めてくれたのが、ユウトさんだった。

美少年のユウトさんは、みんなのアイドルだった。


そのユウトさんも旅立ち、そして戻ってきた。

片腕を失い、驚くほど美しい女性——エクシーさんを連れて。


最初、エクシーさんのことは嫌いだった。

香水なんてつけて……お金持ちの道楽かと思った。


でも、小鳥亭で一人寂しそうに飲んでいて……

「こんばんわ?」

気づけば、声をかけていた。


「こんばんわ」

あでやかに笑うその顔に、つい見惚れて、話してしまった。


……なにそれ。エクシーさん、めっちゃいい人じゃない。

香水は大切な形見?

ユウトさんのこと、可愛いだけじゃなくて目が離せない?……。


気づけば、すぐに意気投合していた。


ーー月に一度の日、私はエクシーさんをそこへ連れていった。

小鳥亭の次に、私が好きな場所。死者を弔う場所。


「ここは……」

エクシーさんが洞窟内を見渡す。


「『眠る魂の洞窟』」

壁には、無数の名前が彫られている。

静かで、音もしない。


「さ、ここに魔石を置いて?」

私が促すと、エクシーさんは微笑んで頷いた。


「このためだったのね」

小さな魔石を置くと、魔力灯の明かりが優しく、大きく揺れた。


「ここにね、私のお父さんの名前があるの」

エクシーさんが私の指を追う。


そして、そっと両手を合わせた。


「それは……?」

「……あぁ、ごめんなさい。私の故郷の習慣で……」

「ううん、いいの。エクシーさんの好きにして」


私は、壁の名前を一つずつ紹介した。

大好きだった人たち。ちゃんと覚えているよ、って、心の中で伝える。


「ミラベル、また来たのか」

ジジさんの声がする。


「ええ。月に一度は、来ないと……」


「相変わらず律儀なやつじゃな」

律儀……? よくわからないけど、ここは、またみんなに会う場所。


「……ミラベルさん」

「エリオット、ここに『草原の狼』のみんなの名前があるの」

私が指をさすと、エリオットは泣き出した。


「……おれ、なんでおれだけ……みんないいやつだったのに……なんで……」

小さく息を吐く彼に、そっと言葉をかける。


「そんなの、関係ないわ。気持ちはわかるけど……でも、こっちは生きていかなきゃいけないの」


……こっちは何年もその気持ちと向き合っているんだもの。


「それでね、大事に思うなら、こうして会いにくればいいのよ。

『また来たよ』『楽しかったね』『また飲みたいね』ってね。


そうしないと、大事な楽しかった思い出まで、悲しくしちゃう。

それは、ダメよ。絶対に」


だから、私はここでは笑う。

お兄ちゃん、お姉さん、また来るね。

ありがとう。


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