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第3話 幕は終わらない


ーーグルュグルュ


お腹がなる、不釣り合いな音。

空気がゆるむ。


「ご飯食べますか」

エクシーが笑う。


「そうだな……」


確かに腹が減る。


「左腕が無い、美女が入ってきた。もう、わけわからん」

「そうですよね」

彼女も笑う。

美女ってのは、謙遜しない……そうだよな。


「魔王の分身ってのは、後で話すとして、少し、休ませてくれ。流石にいっぱい、いっぱいだ」

「判りました」

ふんわり笑顔。惹かれてしまう。

悟られたくない。

顔をひきしめる。


「下に食堂があります」


起き上がる。

彼女についていく。


「こんな事を君に聞いていいのか判らないが……。

魔王は亡くなったのか?」

彼女が振り返った。

小さくゆがむ顔。


「大丈夫ですか?……軽い話では無いので」

察した。

彼女にとって、大事な人を“俺”が刺した。


心の中で一息。


「ご飯食べながら聴かせてくれ。

おれには……その責任がありそうだ」


向かい合って座る。


おれの目を見てくる。

きれいだ……違うだろ。


(日本語)

「魔王はあなたが殺しました」

「だよな……」

謝ることもできない。

魔王は脅威だった。間違ってはいない。



「勘違いしないで欲しいのが……魔王『リオン』って呼んでたんですけど、死にたがってました」

「ちょっと整理させてくれ……」


水を一口。


「まず、エクシーは日本人で“魔王の分身”」

「逆です。魔王が日本人で、私が分身」


「まとめて話しますね。

リオンと呼ばれた日本人女性が、約1000年前にこの世界に来ました」


「あぁ」

1000年前、日本から転生。


「“魔王レオン”という男性名で活動していました」

「だよな」


魔王の名前はレオン。

最後まで、男だと思ってた。

日本人女性だったのか。


「そして、記憶も能力も全く同じ私が生まれます」

「うん」

エクシーが生まれた。


「そして、リオンは“そろそろいいかな、もう充分に生きたし、あとはお願い”って」


死にたがった魔王。


怪訝な顔で見ながら、女性がパンとスープを運んでくる。


久しぶりの食事。

コショウと、野菜のスープの香り。

がっつきたい衝動。

コッソリと口に食べ物を運ぶ。


「なんか、ユウトさんがこっちに気を遣って食べてる感じで、少しなごみました」

笑う。


「あ……すまん」

つられ笑い。


「……いいですよ。久しぶりのご飯ですし」


その“久しぶり”が、なにか別の重みを帯びている。


「女性だったのな……魔王:レオンの本名はリオン」

「ええ、殺す時に胸のふくらみで気づきませんでした?」

ブラックジョーク。


「いや、必死で……あんまりオッサンを責めてくださるな」

「オッサンに見えないんですよね、小さくて……少し可愛らしいし」

その“少し”に妙に刺さる。


パンをちぎって、スープにつける。

それを見ている彼女。

周りの喧騒、静かなテーブルの空気。

腹がたまる。


空になった皿を見て、彼女の顔つきが変わる。


諦めのような光が宿っている。


うん……?


「もう、大丈夫ですか?」

「ああ、お腹いっぱいだ……胃が驚いている」

「最後の重大事項です」

「うかがいましょう?」

腹ごしらえは済んだ。


「魔王を殺した、あなたは……」


「仲間に殺されました」

「……え?」

声にならない声。カスれる。

なまりが内臓に溜まった。

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