第28話 馬に人参
いつも通り、小鳥亭での日本語での密談。
それは、何気ない一言で始まった。
「エクシーって、日本にいる時は、働いていたの?」
「ええ、もちろん、働いてました」
「どんな仕事、していたの?」
聞いてもいいよな?
「料理研究家ですよ」
(あれ?ユウちゃん気づいちゃった?……フフフ)
「ってことは?」
グラスのワインを味わうように飲むエクシー。
「……なんでしょう?」
「その時の事って、覚えている……?」
「はい、全部、動画に撮ったみたいに鮮明に」
「じゃ、日本食って作れるの……?」
「はい、味噌も醤油もお酒も、ぜーんぶ、作れます」
(ふふふ、食べたいよねぇ〜)
「作っていただけないでしょうか?」
(敬語で、上目遣いで頼むなんて……ちょっとユウくん、あざとくない)
「いいけど……条件があります」
エクシーが罠に落ちた獲物を見るような笑顔を浮かべた。
その夜、魔力供与法189日の43日目。
大概の辛いことも慣れていくはずだ。
しかし、慣れより、辛い時間が伸びるスピードが早い。
供与される魔力が増えれば増えるほど、辛い。
「50日目達成の時に用意するご褒美の日本食、まず一品目は『納豆』……」
え……納豆?
「あれ、ユウトさんは納豆が嫌いですか?」
「いや、そうじゃなくて、日本食の第一発目が納豆?」
「いやだったらーー辞めますか……?」
急に冷たい目になる。
ヤベっ、怒らせた?
「いや、むしろ“ムショでカツ丼出された”くらいの衝撃だわ……」
「え……」
なんか、すべった??
「いや……いただきます」
「そうですか……」
次の日、やっぱり魔力供与の時間。
「50日達成の時に用意する日本食、次の一品は『味噌汁』……」
これって……。
(あら……ユウくん、気づいちゃったかな?)
ーー50日目
エクシーのプライベートハウスがあるという、場所に転移魔法で移動する。
山奥にの林の中に、ポツンと建っている木製の家。
俺は、もう田舎の家に遊びに帰っているような気分に襲われる。
木製の家の中にテーブルがあり、その上から料理のにおいが漂う。
優しい匂いのはずなのに、これほど暴力的なのは、恋焦がれていたからだ。
間違いない。
俺は改めてエクシーのチョイスに感謝した。
まずは、質素なメニューがグッドチョイスだ。質素なメニューでも、これだけ待ち望んでいたのだ。この後のメニューが期待値が上がる。
ごはん、納豆、塩ジャケ、味噌汁、きんぴらごぼう。
いわゆる、パーフェクトな朝定食。
「はい、ユウトさん、ご用意しました」
「ありがとう……うんうん」
「いただきます!!」
俺は半泣きを堪えながら、故郷のメシに舌鼓を打ったのだった。
この日本食、ご褒美作戦は10日ごとに披露された。
81日目、次の10日ご褒美は、95日。ほぼ、折り返し地点。
「95日目のご褒美は「真っ白な砂浜」」
え……日本食じゃない?
なんか、恥ずかしそうにしているエクシー。
次の日。
「95日目のご褒美は「真っ青な海」」
次の日。
「95日目のご褒美は「水着」」
さらに恥ずかしそうにしているエクシー。
もう、意図がわかってしまった。
次の日。
「95日目のご褒美の「水着の色は何色がいいですか?」」
俺もちょっと恥ずかしくなりながら、答えた。
95日目のご褒美はプライベートビーチで美女とデートでした。
「ジロジロ見ないでください……」
って。
スキンシップ多めで、ご褒美なのか、地獄なのか……?の日でした。