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永遠 ♾️ バディ無双 〜爆弾娘と不器用勇者の旅〜  作者: アキなつき
第三部 次の無双の前の静けさ
28/96

第27話 信じている


雑然と、物が散らかった部屋。

しわくちゃなシーツ。


ジジは一人、部屋で叫んでいた。


「あぁあぁあああーーッ!」


残った左手で、枕を何度も叩く。


「どうすれば……どうすれば良かったんじゃ……!」


あの時は必死だった。

3人で生き残るために、わしが右手を犠牲にするしかなかった。

後悔はない。出し惜しみしてたら、全滅だった。


……でも。



……でも、夜になると、胸を抉る声が聞こえる。





ーー1ヶ月後。


「ユウトさん、ちょっと相談があって……」

ギルドの受付、ミラベルに声をかけられた。


「ん、どうした?」

「ここじゃアレだから、夜に母のお店で……」

「母のお店?」

「そそ、『小鳥亭』。常連さんでしょ?」


ーーまた面倒な依頼か……

そう思いながらも、どこか嫌な予感は消えなかった。



小鳥亭でエクシーと飯を食ってると、ミラベルが片腕のジジを連れてきた。


「私は席を外しますね」


そう言うと、エクシーは「また後で」と言って、出ていった。



目に光がない。

「久しぶりじゃな……」

声にもハリが。


「あぁ……」

「ミラベルにのぉ……お主なら、普段からオッサンくさいから、いいアドバイスもらえると言われての……」


ビールをグイッとあおる。


「まぁ、中身はオッサンだからな」

「いくつじゃ……?」

「四十……いや、こっちに来てから足すと四十五くらいだ」

「嘘じゃろ〜」

「まぁ、いいんだよ。それで?」


ジジは、苦しげにビールを見つめた。


「腕がよ……なくなって、気力が出ないんじゃ。最初はやれると思っとった……」

「ああ……」

「左手だけじゃ、何もできん。あれもこれも、全部できたはずなのに……結局、誰かに助けてもらわなきゃ、何もできん……」


頼られて生きてきた人間が、頼ることの重さに潰されそうになってる。


ヤダな……

アンタに説教できるほど立派な人間じゃないんだよ、俺は。


腹黒いし、ぶきっちょだし、怖がりだ。


……でも。


胸の奥が、熱い。


言葉が勝手に出る。



「おれはさ、ジョルジュって人を信じてるんだよ」

不意に、言葉が溢れる。


「今はさ、迷って迷って……」

あれ、なんで涙が出るんだ?


「……光が見えてないだけで、足掻いてるんだよな……」

「だからさ……上に上がってきてくれよ。いつまでも下向いてないで……歯食いしばってよ……戻ってきてくれよ……」


「ワシは……」


「今までやってきたことが、右手一本失ったくらいで消えるのかよ?

これまで積み上げてきた経験はどこいったんだよ?」


「それは……」

「……後は自分で見つけるんだ。顔をあげるのはおれじゃなくて、アンタだ」


だから……待ってるよ。元バディ。


ジジは黙ったまま、ビールを見つめていた。

「スマンのう……」

「いいよ。迷わないやつと飲む酒なんか…クソつまんねぇじゃん」

「そうじゃな」

「焦るなよ…俺はジョルジュって人が、また立ち上がるのを待ってるから」


口角を上げた気がした。

「しつこいわぃ……なんとかするわぃ……」

「で、ジジィ、今いくつだ?」

「お前より若いわ!」

「嘘つけ」

「嘘じゃない!」


ーーと、エクシーに深酒を止められてるのに、このジジ、つぐ、ペースが早い。




ーー翌日、ギルドの前に看板が立った。


《冒険の相談に何でも乗ります》


二日酔いも見せず、背筋を伸ばして立つジジの姿。


「ジジさん、これ、なんて書いてあるんです?」

文字を読めない若者の声に、ジジは笑った。


……これくらいで、へこたれる理由にはならん。


「ジジさん、助けてほしい……」

そこには「草原の狼」最後の生き残り、エリオットが立っていた。


「おう、君が第一号か……」

「仲間が……みんな死んじまって……いいやつばっかりだったのに……」


……わかる。わかるぞ。


ーーだが、ワシはこの青年から、金を取れるのか?


ジジのセカンドライフは、これから始まる。

どう転ぶかは、まだ誰にもわからない。


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