第26話 同情を隠すための、覚悟の捨て札
エクシーの目の前で眠る少年。
『武』だけで言えば、アリと人間ぐらいの違いがある。
それだけでないことをエクシーは知っている。
『鬼の片腕』のトラウマに立ち向かう彼の顔。
『ギガントメガオーガ』に覚悟を決めた彼の顔。
思わず、サラサラと流れる髪にそっと指を通し、柔らかな頬に手を添える。
うなされている。
ーー
ーー
視界がボヤけているところから、クリアに。
暖かい部屋、外は風が吹いている。
妙に落ち着く、香り。
「目が覚めましたか?」
エクシーの声。
おれは、少し顔を伏せる。
口についたヨダレを袖で拭いて、あれ、何してるんだ?
……ゆっくり、思考に熱が入る。
「大丈夫ですか?」
ああ……そうか。
ギガントメガオーガを倒したんだ。
「ああ」
「良かったです、ユウトさんが無事で」
その言葉に心が軽くなる。
……浮き足立っている。
そういえば。
エクシーなら、もっと早く助けられたんじゃないか?ーー苦笑。
助けられたほうが言うことじゃないか。
「……ユウトさん」
言いづらそうに、少し止まるエクシー。
「はい」
「魔力供与法やめますか?」
少し悲しそうな彼女。
ーーその顔。
それで心が決まる。
「やめないよ」
その答えで、少し悲しみが彼女の顔から消える。
……まぁ、一緒に化け物になるって決めたから心配しなさんな。
「ギガントメガオーガを倒す時に思った。力は大事だって……」
はぁ、久しぶり。
この高鳴り。
本当に清水の舞台から飛び降り自殺……。
死んでどうする?でも、イクぜ!
っよこらせ。
「おれ……エクシーのこと好きだよ」
覚悟を決めて飛び降りた(告白)。
大丈夫、好きの気持ちに嘘は無い。
……でも、呼吸が浅い。
化け物に同情して魔力供与法をやっているのも嘘はない。
……汗が背中を伝う。
でも、同情なんておれのエゴだ。
だから、好きの気持ちで隠させてもらうさ。
風が外に吹いているようだ。ガタゴトと鳴る音が妙に気になる。
……バレてくれるなよぉ。
「はい……私もです」
はぁ…息ができた
空気が動き出す。
「それは弟みたいにって事か……?」
「弟の "ようですが" 好きですよ」
もう、これだけで死んでもいいわ。
「だからさ、魔力供与法が終わるまで、S級でセイントポーションがドロップするまで、お願いできないか?」
少し固まる彼女。
「うーん、どうしましょう?」
そこで、梯子を外すか……?
おれが捨て札した、愛の告白返してくれ。
「そもそも……魔力供与法なんて、やらなくてもよかったのでは……?」
この前、睨んだこと、怒っている?のかな?
「この前の事なら……申し訳無かった。
俺からお願いしておいて、睨むのは違う。
ただ、自分に負けるなぁ〜って、頑張っていたら、ああなってしまった。
申し訳無かった」
「わかりました……」
ニッコリ笑う。
ヒメの機嫌、治ったかな?
「でも、ここで辞めたら、二度とやりませんので、キチンと最後までやりきってください」
「ああ……手伝ってくれないか?」
「ふふ……わかりました。
でも、やり切ったなら、その時は……」
ニッコリ笑って、出ていく、エクシー。
うっすら香る、香水の匂いが、おれの理性を溶かしそうだ。
「はぁ……」
思わずため息。
なんとか告白の男でカモフラージュできた。
まぁ、頑張るか。
……おれのピーチ姫は、超絶いい女さ。