第24話 遊びの思い出
==ユウトを迎えにいく前のエクシー
エルフの森の中。
月光が葉の合間から静かに差し込み、白銀の揺らぎが地面を照らしている。
エクシーは静かに佇む。
一人のエルフが、深い緑色の小瓶を差し出した。
「あまり、老けないのね?」
エルフに笑いかけるエクシー。
「そっちこそ、相変わらず化け物級の美しさ」
「化け物はひどくない?」
冗談に笑って返す、エクシー。
「だって、私はいま、200歳で、あと50年もすればお迎えがくるのよ…」
「そう……?」
長命種のエルフでも寿命は250〜270歳ぐらいだ。
緑の小瓶をあらためて差し出す。
「毒消し薬。お題はいらないよ」
指先には、微塵の迷いもない。
エクシーはゆっくりと受け取る。
「ありがとう……」
「礼はいらないよ。昔……人間の世界で奴隷にされたエルフを、しらみつぶしに見つけて、森へ戻してくれただろう。あの礼さ」
「何年前の話よ……?」
「さぁね……おばあちゃんの頃の話でしょ?私も知らないよ」
静かな風が木々を撫で、葉の音がひびく。
エルフの目が、どこか寂しげに細められる。
「……もう、エルフの男遊びはいいの?」
視線の先には、丁寧に整えられた小さな別荘がある。
エクシーは小さく笑う。
「それも、昔の話。たくさんのエルフに、よくしてもらったから」
「確かに、昔の話だけど……まだ、男たちは信じてるよ?」
「え……?そうなの……?」
「気まぐれに、女神があの別荘に現れて、お酒と温泉、素敵な夜を何日も……って」
「……そうね。あの頃は、誰かに好きになってもらいたくてここに来て……」
「うん……」
「多分……寂しさを埋めたくて、でもうまくいかなくなっちゃう。すぐに」
「……」
「本気で好きだったとも思えるけど……今となっては、もうね。昔の話」
「楽しくなかったと言えばね……嘘だけど」
エクシーは、少し目を伏せて小さく笑った。
「でも、あの別荘は……整えておいてくれる?」
思いついたようにお願いする、エクシー。
「ああ、いいとも。エルフは義理堅いのさ。いつでも、中の温泉には入れるようにしておくよ」
「良かった」
「使う予定あるのかい……?」
「うーん、どうだろう?……あ、男のエルフには内緒でお願い……」
風に混ざるかすかな硫黄の匂いに、エクシーは不釣り合いなロマンスの思い出を、そっと噛みしめた。