第21話 勇者の実力
熱った身体を冷やす様な、夜の空気が気持ちよかった。エクシーがいないので、アイテムが入った袋が肩にズッシリとくる。
……いつも頼りっきりだったな。
月夜に真っ赤に血を吸う様な『鬼の片腕』の入り口。
この奥には地下道が……東京都の地下鉄の広さぐらい伸びて、しかも、8階層までいくから、8倍……。
「どうした……?」
腑抜けたように見えたらしい。
ジジさんに心配される。
「いや、とうきょ……。
ーー何でもない。大丈夫だ」
思わず、いつもの日本ネタを言う相手じゃ無いことを思い出す。
「心配された後で何だが……、今回の指揮は俺が取らせてもらう」
ジジさんは平然と頷く。
「フンっ!! 構わんよ。使えなかったら、すぐにコキ使ってやるわ!!」
声デケェよ、ジジイ。
「じゃ、いくぞ!!!!」
負けじと声を出して駆け出した。
ーージジ視点
ユウトと名乗る小僧の事を、正直に言ってわしは軽くみていた。いや、舐めていた。
化け物のように、強者の雰囲気を放つエクシーなる、女性の隣にいるのだ。彼女のおかげ、たいしたことない。そう思ってた。
ミラベルから、ユウトのクレジットを見せられた時にあった上段のフレーズ。
『魔王討伐チーム』
それは、1〜2ヶ月前にセントラルが公表した、チームメンバーだ。しかし、その時のメンバーに小僧の名前は無かった。
「訳ありみたい……秘密にしておいて」とミラベルが言っていたから、もちろん話すつもりは無い。
「ジジさん、大丈夫か?」
極めつけはこれだ。
さっきから、わしも身体強化魔法を使っているが。
ーー息が苦しい、吸うのも吐くのも間に合わん
「はぁはぁはぁ……。
小僧は……なんで……息が切れんのじゃ?」
「うーん、これは『肺』と『心臓』も身体強化するんだけど……相当難しいし、力加減ミスると……ヤバっ」
ーードーン。
オーガが倒れている。1発じゃ。
「……なんじゃ今の!? 魔法かっ……?」
「ファイヤーボールだけど……」
(ワシの知ってるファイヤーボールと違う)
「まぁ……師匠に……感謝よ……最近、こればっかだったから」
ーーユウト視点
魔王討伐チームのトップアタッカーが俺だった。今回は出し惜しみ無し。
急げ!!
『草原の狼』がこの暗闇で逃避行を続けていると思うと、焦る。
頼むから、パニックになってくれるなよ。
歴代最強クラスのスピードで駆けぬける。
「はぁはぁはぁ……。
小僧は……なんで……息が切れんのじゃ?」
ジジさん、あんた、息が切れるだけで、ついてこれるほうが凄いよ。
目の前のオーガを魔法で一撃!
「少し休憩しよう?」
「ああ……そうしよう」
そして、この安心感。
暗くてジメジメしたダンジョンにこの焦燥感。もし、一人だったら?ゾッとする。
(とは言え……あそこに不安が無い……わけでも無い)
ーー1泊して、俺たちはそこに到達した。
フラッシュバックする。あの時の記憶。
気持ち悪い……。
血糊でベタベタになった道。
おれのトラウマ……。
冷たくて、臭いダンジョンの空気に、体温が急に下がる気がする。
出たい。早く出たい。外の空気を……。
違う、助けるんだ。
今度こそ助けるんだ。
止まるな、止まるな、動かなくなるぞ。
頼む……動いてくれぇ……。
助けるんだろ??
「小僧、どうしたんじゃ?」
ー光。
「大丈夫か……?」
肩に手をおいてくる。
暖かい。
「……トラウマなんだよ、ここ」
「……そうか、別の道をいくか?」
「いや、ここを通れば半日は早く下に降りられる」
ノロノロとカタツムリ歩きの俺を、ジジさんがヒョッいっとかついでくれる。
「グハハっ……小僧にも苦手なものがあるか?」
「完璧な人間なんていねーだろ」
トマス君だって、エクシーだって、俺だって、もちろん……あんただって。変わらないさ。