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第20話 もう一人のA級

──草原の狼が、死ぬかもしれない。

ギルドの空気が重く沈む中、ミラベルが吐き捨てた。

「もー、しかもA級なのよ。ジジさんぐらいしか、A級いないのよ……」

「ジジさん、昨日、帰ってきてます」

女性職員が叫ぶ。

「いきましょ、ジジさんに頭を下げに……草原の狼を助けて欲しいって」


トマスが口を開く。

「そこまで……」


小さな声で。

「……そこまでする必要あるんですか?」


その声にミラベルは小さく苦笑した。


「バカね、貴方のためじゃない?

飲み友達なんでしょ?"草原の狼"」


ミラベルが出ていく。


改めて、トマスが動く。

小さい声で叫ぶ。

「誰か、助けてください……」

冒険者達も目を合わせない。

今度はギルドの全員に向かって叫ぶ。

「誰か、助けてください。友達なんです。

みんなで力を合わせれば、いけるじゃ無いですか?」


「無理だ!」

ダンが正直に伝える。

「あそこは、道幅が狭い、迷宮型。

モンスターと出会った時、個人の力がものを言う」


「そんな事言わないで!!誰か助けてください!!」

トマスの絶叫にも似たお願いが響く。


誰も何も答えず、動けないまま時間だけが過ぎる。


ーー無常にも時間が過ぎて

「それで、状況は?」

ミラベルがジジを連れてきた。


ダンジョン明けの休暇だ。

A級とはいえ、明らかに準備不足。


トマスはもう絶望の淵で呆然と立ちすくんでいる。



おれは……息をはいた。

「ったくよ。俺がいくよ!」


若者のケツを拭くのも年長者の役目。

前世でもよく、部下の尻拭いしてたな。


「え……ユウトさん、鬼の片腕よ」

ミラベルが心配してくれる。

「そうだよ、トラウマばっちりの鬼の片腕だよ」

「いける……?」

「いけるさ……むしろ、トラウマのおかげで裏道まで覚えてる」


「しかも、あの頃よりも何倍も強い」

魔王まで殺してるんだ。今更、メガオーガごとき気にしない。


「気ぃ使いやがって、俺に頼りたかったくせに目線合わせないようにしてただろう?」

ミラベルを見ると反応しないが目でイエスと答えている。


「と言う訳で、ジジさん、急ごしらえのバディだけど、よろしく」

「いや、いいのか?小僧がやれそうなのはわかっておるが……」


「ミラベル、5年前のクレジットって残ってないか?」

「待ってて……」


ーージジさんが、クレジットを読んでいる


「……問題ないな、むしろワシより強いか?」

俺は目線で合図して、いつまでもジメジメしてるトマスに檄を飛ばす。


「トマスっ!なんとかしてやるから、お前のできる事やれ!

ダンジョンの地図とかねぇーのか?

メガオーガの急所の情報とかねぇーのか?


みんなも、悪いけど、助けてくれよ。

口とガラは悪くても、人情には熱いのが――デュランダルトだろ!!」



ダンジョンの地図を職員が出してくれた。

トマスも絶望の中、動いている。


(そうだ、辛い時こそ、腐るな。立ち止まるな。歯を食いしばって、とにかく動け。頭も身体も動かせよ)


心の中でエールを送りつつ、勇者の経験から今回の救出の分が悪いのがわかる。


「ミラベルっ!!全14階層の何階層にいると思う?」

「草原の狼が申告したのが、7日前。

前回が、5階層まで行っているから、7〜8にいる。まず間違いないーー」


「トマスっ!

あんたにここまで出来る??

本当に、効率悪いと思う……?」

檄を飛ばすミラベル。

おぅおぅ……先輩容赦ねーな。

「すみませんっっ!!」

ちゃんと謝るトマス。

根は腐ってない。


みんなが、ポーションやらなんやらを持ち寄ってくる。よしよし。

「これでいけるか?」

ジジさんの確認が入る。


「……いや、ダメだ。古布が足りねぇ。血糊で剣が切れなくなるんだよ、これじゃ」

血糊を布で拭き取って捨てる。

それで、数人の冒険者が動いてくれる。


「ユウトさん、武器は?」

「もう、出し惜しみ無しだ。

エクシーに剣は止められているが、今回は解禁する!!」


「武器はあるか?よかったら使ってくれ」

ダン君がここでイケメンムーブかましやがる。本当は命の次に大事な商売道具。

普通は貸しはしない。


「本当にありがとうな…。

でも、ごめんな。

今回は短期決戦なんだよ……」

あの人に頼むか。


「ミラベル、ギルド長はいるか?」

「え……ユウトさん、あの人は何も動かないよ」

「頼んだのかよ!!」

「……言っても聞いてくれないもん」


「本当は部下の責任は上司の責任だろ。

真っ先にケツ拭けよって話だ。

俺が交渉するよ」

ーー中年サラリーマンやってて、よかった。


久しぶりのギルド長の部屋に行く。

ノックする。

「入れ!!」

大声、高圧的。みんな、避けるんだよな。

「ギルド長、お久しぶりです」

「ユウト……」

そう、表情固くて怖いんだよ。


ーーおれはギルド長に今回の経緯を語る。

そして、いかにギルド長の秘蔵武器が必要か、筋道立てる。後は……。

「ギルド長、その武器、貸してください。今こそ一肌脱いでもらわないと」


最後は泣き落としだ……。


「あんたには何度も貸したもの壊されたけどな……好きに持ってけ」


俺は。

ギルド長秘伝『鬼殺し』を借り受けた。

こいつは、血糊を吸って強くなる。


「本当に、借りたの?」

ビックリするミラベル。

「さっさと差し出せって話だけど……、

結果が大事」

ふぅ。

「そういう意味では、今回の件、ウチの姉さんが最適で最強なんだけどよ」

だよな。

黙っているトマスを見る。


「わりぃ、トマス。

おれ、絶賛、うまくいってないんだわ。

エクシーごめんね、助けての手紙書くから、泊まっている宿に届けてくれるか?」

……あぁ、本当にぐちゃぐちゃだ。


さて、恥も外分も捨てて、身も軽くなって、腹もくくった。





出陣だ!!足引っ張るなよ。ジジイ!!


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