第18話 中年はナイト・ヒメはビール
「待ちたまえ!!」
呼び止められた先には、イケメン+女性2人立っていた。
「ユウト君だったかな?」
「はい」
「確かに可愛らしい外見だが。
所詮は、エクシー君の"抱っこ紐にぶら下がっている" のではないかね……?」
「ーー?はい……?」
こっちの世界で、抱っこ紐にぶら下がっているというのは、金魚のフンと同じ比喩表現で使われる。
「ええと……どちらさんですか?」
「僕はダニエル・アストン。セントラルではそれなりに名のある家柄さ。
みんな僕の事をダンディーのダンって呼んでくれるよ」
真顔だ。
あれ、セントラルの貴族?アストン、いたっけ?
「そのダンディー様がなんのようでしょうか……?」
「ふふふ、ダンでいいよ。
抱っこ紐にぶら下がっている君が、職員のトマス君を注意する、なんて出来るのかい?
しかも、彼は "トーマス君"じゃなくて、トマス君だ。
名前も覚えていないのは人としてどうなんだい?」
あちゃー、そりゃ俺が良くないよな……。
「さ、エクシー君、僕のパーティーに来たまえ」
彼のイケメンスマイル炸裂して、おつきの女性2人は微妙に嫌な顔してる。
「だってさ、エクシー、どうする……?」
「ユウトさんはどうしたいですか?」
「うーん、エクシーと離ればなれになるのか……どうしようかなぁ……」
俺は考えるフリをする。
「コラコラ、『そこは一緒にいたい』の一択じゃないですか??」
笑いながら、おれのボケにのってくれる。
「だそうなので、お断りします」
(あれ?今日のユウくん、守ってくれちゃう感じ? じゃ、お姉さんも、たまにはヒメになろうかな……フフフ)
「はぁ??ーーーー……」
断られるなんて思っても無かったっぽい。
「エクシー君。君がそんな判断をするなんて……」
「ーービールが早く飲みたい(日本語)」
エクシーが不満たっぷりの顔で言う。
「なんだって……?」
突然さえぎられて、ビックリする彼。
「ビールが早く飲みたいの!!!!
もう……スケさんカクさん、懲らしめてあげなさい!!(日本語)」
なんか、プリプリしている。
ちょいと可愛い。というか、あざとい?
まぁ、いっか。たまには頑張ろう。
「おれにボコボコにしてもらぇってさ」
彼に宣戦布告。たまにはナイト役もやらないとね。
「ほほう、誰をボコボコにするだって?」
「そこのダンディーな方を、いや、ダンディーでダン。ダンといえばダンディー。ププププ。よっ、ダン様」
「あれ、君、ぼくのこと舐めてる?」
「ぼくちゃん、わからなーい。
赤ちゃん紐、バブバブバブ。バブバブ。
オケツプリン」
突然、胸ぐらを掴まれる。
遅えぞっ!!
その手に残った俺の右手を乗せて。
魔法で……。
「バチバチバチっ!!」
破裂音と痛みにダニエル君が手を離す。
「イテェ〜何しやがった?」
「ビリビリ椅子の魔法」
「はぁ??なんじゃそりゃ?」
電気を流す魔法。
本当は雷使いたくて練習してたんだけどね。
(……ユウくん……電気って、男ならこぶしで語ろうじゃないの?……卑怯。ま、いっか)
「バチバチバチーーーーー」
ちょっと焦げ臭い、これやり過ぎると……ヤバい。
ダン君は痛みに動けなくなっている。
「お姉さん方、ちょっとやり過ぎちゃいました。ごめんね」
そんなに恨み顔をしてないのは、電気の痛みを知らないからだろうな。
コントみたいで、リアクションか、本当に痛いか判らないし。
「ダニエルさん、うちのナイト君、見た目可愛くても、舐めると危険ですよ。
ーーしかも、中々カッコいいでしょ?」
見せつけるように、周りの女性に目線をむける。
トドメに容赦ない……エクシー。
「さっ!!ビール行こっか?」
「はい、そうしましょう」
ニコリと笑い合いながら、ユウ君と一緒に歩き出す。
――夕方の風は、準備に追われる飲食店の料理の匂いを運んでくる
(ここで、なんで“男らしく”腕を組みにこないの?
そしたら、ご褒美に強めに胸を押しつけてあげるのにぃ……)
そんな悪戯っぽい願いを胸に、私は彼の笑顔を見つめながら、今夜のビールを想像したのだった。
ーーユウト達が去った後
「ミラベルさん、ビリビリ椅子の魔法って?」
トマスは不思議に思ってミラベルに聞いた。
「さぁ…………?
そんな事より、トマス君、ユウトさんが言ってたの、もっともだよ」
「はい……?」
「毎日、クレジット見ないと、何かあった時に気づけない事もあるんだから……」
「はいは〜い。わかりましたぁ〜」
ミラベルは、冗談でも「死ぬ」なんて言葉を使いたくなかった。(フラグにならないで〜)と、心の中で祈っていた。