第17話 修行と地雷は踏むな
ツタで覆われたダンジョンの入り口をくぐる。
ダンジョン外の、昼間の黄色い光が、夕方の茜色の光に変わる。
森の奥まで伸びた、名ばかりの道。
「きれいですね」
エクシーがポツリ。
「ああ、そうだな」
光の差す方を見るが、太陽は見えない。
D級ダンジョン『影走る道』。常に夕闇が支配する、シャドウ(影)ウルフの一大テリトリー。
「ユウトさん、本日から剣は封印です」
「了解」
昨日、ダンジョンでエクシーと手合わせして、一瞬で切り捨てられた。
元勇者、これいかに?
「剣の腕は確かです。でも、片腕では身体強化魔法とのバランスが難しくて……」
エクシーが優しく笑ってくれる。
「ああ、大丈夫だ」
これくらいでへこたれない。
おれの根性は昭和レトロさ。
道を二人で並んで歩く。
……っお?
「きますよ」
小声で合図してくれるエクシー。
次々と迫る黒い影。
右っ!!
「ッボン」
撃ち抜く。
左っ!!
「ッボン」
当たりが弱い。
「ズシャ!」
エクシー、剣一閃。
切り捨てる。
後ろ!
「ッボン」
撃ち抜いた。
一息。
三体の黒い狼の死体。シャドウウルフ。
「ファイアーボールのスピード、精度、良くなってますね」
笑顔のエクシー。
「ああ、一匹打ち損じたな」
呼吸が落ち着いてくる。
「もう少し、『魔力神経』を鍛えて、速くすれば……」
彼女のアドバイス。
魔力神経……魔法を制御する神経。
これが難しい。
時速80kmのピッチャーが100km投げれるようになるくらいの難しさ。
元勇者、スタートから、チート級の魔力神経持ちだが、彼女の要求水準はその上。
「やり方、あるか?」
「……使えば使うほどとしか……っあ?」
「これ、できますか??」
エクシーが手を開いたり閉じたりしている。
開いた時にファイアボールができ、閉じた時に同等の魔力でかき消している。
「できるようになると、魔法のスピードが上がります」
「おぉう……」
出すのはうまくできるのだが、かき消すのがめちゃくちゃムズい。
「アッっっ」
なまじ、エクシーが簡単にやっているように見えるのが、悔しい。
「ふふふ、イライラしますか?」
うん、なんか繊細な事を素早くやるみたいで難しい。力んでしまう。
「ふー……これ、今日できなくてもいいよな?」
「はい、まずは焦らずにゆっくり完璧にやってください」
そうだよな……永生きするのだ。
エクシーの修行は一つ一つは、すごい地味。
でも、コツコツが大事なのは痛いほど知っていた。
ーーギルドが暇になる午後3時頃
トーマス君が、カウンターで暇そうに座っている。
仕事がないなら、自分でみつけろよ、なんて社畜っぽい発想。良くないか。
ただ、ミラベル達、他の職員は、必死に冒険者のクレジットと睨めっこしてる。
「ありがたいな……」
エクシーに話しかけた。
「何がです……?」
「ああやって、誰が帰ってきてないか。
ダンジョンに変化は無いか。
クレジットをチェックしてくれてる」
「それで……いつも、丁寧なアドバイスくれるんですね」
エクシーも気づいたようだ。
ミラベル達の邪魔はしたくないので、消去法でトーマス君に報告するしかない。
「報告いいですか?」
「……あ、はいはい。どうぞ〜」
鼻くそほじりながら、ぐらいのテンションだ。
「パーティー、ユウトとエクシー、D級ダンジョン、影走る道を攻略しました」
討伐証明部位の『ナイトシャドウウルフの耳』を取り出して渡す。
「……はいはい、お疲れ様でした。鑑識に回して、換金してくださいね」
口を結び、思わず出るため息をそっと飲み込む。
ミラベルなら、ここで、ダンジョンに変化がないかのチェックを必ずする。
それも無いなんてな……。
おれはそのまま出ていこうとしたが、一言いっておくか。こいつのこの態度で、誰かが事故にあったら、可哀想だ。
それも、中年オッサンの役割だ。
「トーマス君、その対応はどうかと思いますよ」
「……はい?なんですか?急に。
ちゃんと仕事してますよね?」
「他の職員さん、クレジット見たりとか、やってるじゃないですか?」
「あぁ……そりゃ、俺は頭がいいんで、あんな要領悪い真似はしませんよ」
あ……バカだ。こいつ。
ミラベル達は聞こえていないフリをしているが、他の職員さんの地雷を絶対に踏んだ。
もういいかーー。
「そうですか……わかりました」
お節介になってもしょうがない、しつこく言って、おれが嫌われてもやりづらい。
おれはその場を去ろうとした。
「待ちたまえ!!」
……空気が変わった。
振り返ると、女性を2人連れた、俳優のようなイケメンが立っていた。