第16話 化け物の秘密
エクシーのワインがすすんでいる。
「そんなに、ユウトさんが私と並びたいなんてお姉さん、感動です」
「まぁ、ほらオッサンなのに、いつまでも甘えていられないからな」
セイントポーションがドロップするS級を流石に一人ではクリアできない。
少しポーッとグラスを見つめるエクシー。
「ユウトさん、じゃ、左腕のセイントポーションは後回しでいかがですか?」
「それで、エクシーみたいに強くなれるのか?」
「はい。そのほうが集中できますし、強くなる目処が立ったら私からプレゼントします」
優しく笑うエクシー。
グラスのワインが紅く照らされる。
左腕が無いうちは胸当ても1人でつけられないし、日々の生活で、どうしてもエクシーに主導権を渡しっぱなしになる。
「エクシー、やっぱり魔力量は俺の倍はあるのか?」
昼間の漆黒の水晶が頭をよぎる。
「もっとです」
にっこり微笑む。
「じゃ、1桁は違う?」
「測ってみます?」
「測れるの?」
「はい」
ーーコン、とテーブルに置かれる握力計のような機械。
「ここを握るだけです」
掴むと、数字が上がっていく。
「10,000……」
「一般冒険者は3000〜4000くらいですね」
なるほど、悪くない。
ーーエクシーは?
「私は……久しぶりですが、変わってないと思います」
グングンと上がる数字。
「1億……」
アニメなら笑えるが、目の前にいると怖さが勝つ。
「ユウトさん、1億になってみたくないですか?」
「え、なれるの?」
「はい。ただ、とても辛いです」
「痛いのか?」
「……痛くはないです」
「死なない?」
「適切にやれば」
蠱惑的な笑み。
「方法は?」
「毎日1.05倍になります」
ピキーンと脳裏にソロバンが浮かぶ。
(1万スタートで、毎日1.05倍。
ざっと10日で1.6万、20日で2.6万、50日で8万……
100日でもまだ30万か……)
(なら……189日! それでようやく1億突破か……!)
指を止め、深く息をつく。
「……189日、かかるな」
「え?」
「1.05を189回かけると約107倍。1万が1億700万くらいになる」
「……今それ計算してたんですか?」
「うん、ソロバン1級持ってたから」
「ソロバンで……?」
さてと、化け物修行の始まりだ。
⸻
ーー夜
ノックの音。
「ユウトさん、よろしいでしょうか」
寝る前、エクシーが部屋に入ってくる。
甘い香水の匂いが満ちる。
「お願いします」
右手に『魔力量測定器』を持たされる。
「では、いきますね」
エクシーが魔力を流し込んでくる。
じわじわ、途中から苦しい。
「もう少し我慢してくださいね」
優しく諭される。
10,000を少し超えると、二日酔いのような不快感が押し寄せる。
痛いわけではないが、内臓を捏ね回される感覚。
最後にギュギュっと押し込まれる。
「これを飲んでください」
ムギムギ草をすり潰した汁=草、を一気に飲む。
ツラい。マジでツラい。
「……初めてにしては頑張りましたね」
エクシーが汗を拭う。
「辛いですが、最後まで頑張りましょうね……おやすみなさい」
朦朧とする中、エクシーが出ていく。
不快感をやり過ごすように眠りへ。
⸻
ーー翌朝
『魔力量測定器』を持つと、最大魔力量が5%増えていた。
これを続ければ、あと188日で1億になるという。
この方法をリオンと開発し、『魔力供与法』と呼んだそうだ。
「これ、あと188回か……」
朝から夜が憂鬱になる。