第15話 同情と怖さを、“強くなりたい”で隠した
優しい暗さが、デュランダルトの喧騒から、おれたちをバリアする。
日本語という、二人だけの密室。
丸テーブルに似つかわしくない、胸当てをつけたおれと、防護服のエクシー。
街ではこれが正装。ドレス代わりだ。
ワインのグラスをそっと合わせる音。
「初ダンジョンおつかれ様」
エクシーの香水。更につけ直されている。
それと、誘うような微笑み。
……たぶん、彼女の不安の裏返し。
「おつかれ、カンパイ……」
クスクス笑う彼女。
「どうしたんだ?」
「ユウトさん、前から思っていたんですが、ワイン似合わないですよね」
「……え?」
「かわいいのに背伸びしてカンパイしてる感が漂ってます」
彼女の微笑みに照れながら苦笑い。
この照れは多分……正解、だと思う。
化け物級の彼女の強さ。
比例して膨らむ、言葉にできない不安。
そこからくる、甘いからかい。
おれのサラリーマン時代の営業スタイルは、本音と建前のハイブリッド。
さて、ここからが、今夜のおれの仕事。
「エクシー、本当に強いのな」
サラッと核心へ。
「ふふふ、だから、言ったじゃないですか?」
「しかも、魔法のネーミングセンス、ひどくない?」
「……?え……?可愛くないですか?」
彼女自身、思ってなかったみたいだ。
「あ……ごめんごめん。リオンと二人で考えたんだろ?なんか、可愛くて、からかってみたくなっちゃった」
「あは……そうですよ、ユウトさんひどいですよ」
手を甘えるように、触ってくる。
……押し倒したくなって、もう、どーでも良くなっちゃうから、やめて?
フー。
一息いれて、理性をスイッチ。
ーー思い浮かぶ、あの時の彼女の表情。
**「おとめですから、怖がらないでくださいね……」
怖い? いや、そりゃ怖いさ。
でもさ、言いたいのはそれじゃないだろ。
「寂しいの!!」……だろ?
でも、それを知っていることを悟られちゃいけない。
悟られた瞬間、きみはきっと、本音を隠すから。
しゃーねーか。
一緒に化け物になって、寂しさ背負ってやんよ。
絶対にバレないように、笑って、茶化されて、焦って、照れてるよ。
ちょうどいいじゃないか、おれは中年できみはこんなにも綺麗なんだし。
素でできる。
ーーこれが、おれの本音と建前さ
「なぁ、エクシーならさ、セイントポーションのドロップなんて、簡単だろ?」
彼女が触っていた手を離す。
「えぇ、まぁ……」
「だけど、自分と同じぐらいの強さの男が好きなんだろ?」
「はい」
少し顔色が良くなる。
「だったら、おれを同じぐらいの強さにできるか?」
途端に明るくなる彼女の顔が、ネコのように変わる。
「え、でも、お姉さんの特訓はユウくんにとってキツイですよ」
色気に変えられた。
まぁ、そこに溺れるのも悪くないか。
「ちゃんとご褒美くれるなら、頑張りますよ」
化け物になれるんだ。
他にもご褒美のぞんだら、バチが当たるな。
「じゃ、特訓してあげますね」
彼女がグラスを持ち上げて、おれは重ね合わせた。
「お願いします、エクシーお姉様」
中年が、お姉様ってガラじゃない。けど、頑張りますか。