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第11話 お酒とエクシーの強さ


スパイスが焦げた匂いと、低く響く笑い声がテーブルに溶けている。


エクシーが少しけだるそうにジョッキを傾ける仕草だけで、不思議と落ち着いた気分になった。


「はい、お疲れ様」

日本語で二人で乾杯して。

日本語で喋る。

簡単に密談できる。

「その魔法、便利だね」

エクシーに聞く。ビールを魔法で冷やしてくれた。


「加熱・冷却魔法?ユウトさんもいずれ使えるようになりますよ」

「“いずれ使える魔法”が……今日だけで二つ目」

思わず笑ってしまう。


渇いた喉に冷えたビールが染み渡る。


「さっき、何考えていたんですか?」

「……初めてパニックになった時のことを思い出してた」

「……あぁ……」

エクシーが視線をジョッキに落とす。


「魔王討伐の時は?……」

心配そうに聞いてくる彼女。


「大丈夫……って、変な感じ。俺は魔王討伐のために頑張って、その分身と仲良く飲んでいるなんて」

「そりゃそっか……」

彼女が手持ち無沙汰のようにじゃがいもにフォークを突き刺す。


「元、日本人だもん。命のやり取りしてたら、パニックになるよね」

エクシーにそっと、フォローされる。

「うん『童貞捨てたな』って、教官に言われた」


「腕が治ったら、やりたいこととかあるの??」

こちらを向いて聞いてくるエクシー。


「おやすみだな、もう、疲れちゃった。

元々乗り気じゃ無かったし」

ブラック企業で働いていたようなもんか……。


今は喧騒が心地良かった。




ーー「ねね、ユウトさん、ああいう女性が好みなの?」

エクシーが艶やかに笑う。気づかいが嬉しい。

「ミラベル?もう……親戚の娘みたいな感じ」

おれの答えに、エクシーが笑いだす。


「あれ?なんか面白い事言った?」

「ユウトさんの"かわいい"見た目とギャップが……」

「それ、知ってる。オッサンに若い娘が可愛いって言うのは、脈無しだけど、ヨイショしたい時に使うやつだろ?」

……気をつけよう、中年のセクハラと自意識過剰。


エクシーがとても嬉しそうに笑っている。

……ちくしょう、メチャクチャ綺麗なんだが。


「エクシーは、どんな男性が好きなんだよ?」

「そうですね、たくさんお付き合いはしてきましたけど……同じぐらいの強さの人です」


「それ、ハードル高くない?」

「そう、でも同じ目線でいたいじゃないですか?……だからね、頑張ってね」

目をみて言われる。

あ、ヤベ……おちる?


……ガタッ。

テーブルにぶつかりながら、近づいてくる気配。


「よう嬢ちゃん、こんなガキと飲むより、俺たちとどう? もっといい酒、奢るぜ?」

男が絡んできた。


周りの笑い声に入る、ノイズ。

こちらの話にも入る、ノイズ。


「あ……間に合ってますーー」

エクシーが断ってくれる。


「そんなチビガキじゃなくて、大人同士飲んだほうが楽しいぜ」

心地よい酔いが去っていく感覚。


「断って、ます、よね」

……俺より先にエクシーがキレた?


ゆったりとエクシーが立ち上がる。

「いや、そんな事言わ…………」

エクシーが男の喉を掴む。

見ているこちらの呼吸をも止めるように、ユックリと彼女の手に力が入っていく。


「ちょっ、話せばーー」

周りの男達が動き出すーー。

ジワジワと溢れるエクシーの魔力。

ジワジワ……少しずつ、膨れ上がる。


男達はガタガタと震え、そして動けなくなっていく。


彼女の手が少しずつ、上に上がり――

ドシャッ。

乾いた音。

背中から床に叩きつけられる男。



ビールを一気飲みして。


「ふー」


エクシーが笑う。


「もう一杯飲み直そ?ユーくん?」


うちのエクシーさん、お強い。


「あ……はい……お店変えましょっか?」

「うん」



ーーさすが、猥雑な街、デュランダルト

何軒かお店から明かりが見える。


こじんまりしたお店に入れた。


柔らかいランプの明かり。

低いテーブル。

外からのざわめきは、ここまで届かない。


水の底。

静かで、澄んでいて、息が楽になる。



「本日、二回目の乾杯」


エクシーがワインをひと口。

耳元の髪にそっと指を沿える。


最初からこういう店にしておけば良かった。


「なぁ……エクシーの強さを、ちゃんと見せてもらえないか?」

「いいですけど……1つ条件があります」

「はい……」

あでやかで小さな微笑み。


「おとめですから……怖がらないでくださいね」


彼女は、小さく囁いた。


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