第10話 受付と夕暮れ
4時間が経ち、デュランダルトの街の城壁まで辿り着く。
衛兵に止められ、簡単なやりとりの末、「ギルドで登録してくるように」と言われた。
城壁の門が軋む音とともに、中へと入る。
ギルドまでの道は、石積みの道と石積みの建物。統一されてない階段が続く。
坑道のようなダンジョンの入り口が、石壁の街のあちこちに口を開けている。
ひとつ進めば草原、ひとつ進めば火山。入口の先は、それぞれ別の世界が広がっている。
時刻は昼過ぎ。
冒険者ギルドの建物に着いた。
5年ぶりか。
転生したばかりの頃、修行の為、毎日ダンジョンに潜ったっけ。
登録カウンターのお姉さんが顔をあげて、ハッとした顔をする。……うん?
「ねぇ、君みたいな可愛い子、大丈夫?」
……時々言われるんだよな。かわいいとか。
「大丈夫ですよ、こう見えて、そこそこ出来ますよ」
エクシーが後ろで笑いを堪えている。
お姉さんはまだ、不安が拭えないようだ。
「そう?ダンジョンは命落とすこともあるから、男娼なら、辛いかもしれないけど、死にはしないからね」
小さな声で"もしよかったら、紹介するからね"と言われる。
そして、エクシーの登録時。
受付のお姉さん。
「あなた、勿体無い!
娼館いいえ、飲み屋のママでもいいわ!!」
笑っていたエクシーの顔から表情が消えた。
かまわず続けるお姉さん。
「トップを張れるわよ!!」
おれはエクシーの無表情に思わず笑いそうになるのを堪える。
……この世界でお店出すなら**ガールズバー『元魔王』**だな!?
帰ろうとした時。
「あれ……ユウトさんじゃないですか?」
別の受付の女性が気づいた。
「あぁ、お久しぶりです……ええと……ミラベルさんですよね?」
日本語の『見る』と『調べる』を足したような名前だった。
「そうですよ」
ニッコリと笑う。
……女性は5年で化けるなぁ。
「キレイになったなぁ……」
小声で思わず口に出てた。
「ユウトさんは、相変わらず可愛いのに"中年坊主"ですね」
ケラケラと笑う。
おれが受付カウンターで手続きしたのをチラッと確認するミラベルさん。
「どうしたんですか?また、ゼロから登録なんて」
左腕が無いのを見られる。訳ありなのを察したのだろう。
「身分証を無くしまして……」
「でも、ユウトさんなら、ギルド長の推薦で再発行も……」
「ああ……大丈夫です。
急ぐ事も無いし、F級から慣らしていきます」
夕日をバックに宿屋への道の途中、見た事ある景色に足を止める。
人の血を吸った跡のように、真紅に塗られているダンジョンの入り口。
「あのダンジョン、よく通ったダンジョンだ」
「鬼の片腕……」
エクシーがダンジョン名を読み上げる。
鬼の片腕。
ーー5年前
「クソっ……クソっ……クソ……」
切っても切っても、出てくる。オーガ、オーガ、オーガ。
簡単なダンジョンだと言われたのに、気づいたら、一人だった。
大量のオーガに恐怖が襲ってきて、振り払うように剣を振りまわして。
また恐怖が襲ってきて剣を振って……また襲ってきて……。
気がつけば、後ろから、仲間にはがいじめされていた。
「大丈夫だから……大丈夫だから……」
大量のオーガの血がヌルヌルとまとわりついていた。
ーー「ユウトさん、喉乾きません?」
「あぁ……」
今ならあの時のオーガも瞬殺できる。
パニックにもならない。
「ね、ビール飲みにいきませんか?」
楽じゃなかったよな。5年間。
「ユウくーん?お姉さん、喉かわいちゃったんだけど〜??」
エクシーの顔が近づく。
「え……」
急に現実に引き戻された。
「ええと……」
「一緒にお酒を飲みに行きませんか?」
「構わないですけど……?」
なんか、思考がついていかない。
「嫌なんですか……?」
すでにエクシーは笑っている。
「嫌じゃないですけど!?」
なんか、声が大きくなってしまった。
「飲みにいかないんですか?」
「いきます、いかせてください。むしろいきましょう?」