第1話 その代償は片手
エクシー。
君がおれに言いたいのは、テンプレどおりに始まる関係。
……そんなのは、ひとつも無いってことだろ?
異世界だって、日本じゃなくたって。
テンプレ通りじゃない。
……左腕が、ない。
あぁ、やっぱり夢じゃない。
ま、いいさ。
そろそろ始めようか。
ここからが、おれたちの“本当の物語”だ。
*
もやがかった視界。
静かだ。
神様でも出てくる?
「何やっているんだ」
あの怒鳴り声。よく知ってる。
……部長。
怒ってる。
こんなポカミスあり得ないーーこの前、おれが、注意したばっかりだろう?部下にさ。
……無いな……無いよな。
……
モヤから、ちょっとずつ、目の焦点が合ってきた。
こする目。
「えっ……」
どこ??
木、天井……ログハウス?
匂い……爺ちゃんの家。
そう。
日本じゃない。
ここは異世界。
思い出した。
ーーあの時、出し惜しみは無しだった。
歪む空気。伸びる時間。
仲間たちの動き、スローモーション。
……来る。
魔王の剣、こっちに。
はっきりとわかった。
そして──
おれの左腕が斬り落とされた。
プシュー、スプラッシュ。
吹き出す血。
無我夢中、おれの右だけで、渾身の一撃!
放つ!
グサッ。
心臓に、剣。
押し込む!沈む。
ズブズブ。
ゆっくり、崩れ落ちる魔王。
ッ!!
焦り、引き戻される。詰まる……呼吸。
そーっと押さえる。
「ない?」
……左腕がなかった。
ウッ。詰まる。
あぁ……。
上、あおいだ。
どうしたんだ?思い出せない。
その後の記憶が無い。
左腕で魔法。右腕で剣。
『魔法剣士』って呼ばれてた。
年甲斐もなくはしゃいで。
そりゃ、ねーよ。
陽が差し込む。
床。
終わったよな? 魔王、倒したよな?
持ち物は、ない。
パーティーメンバーは……無事か?
フッ、しらじらしぃ。
……無事なら、おれの左腕が無いはずがない。
聖女が治せる。
彼女なら。治せる。
違和感。
焦燥感。
あいつら……魔王を倒す前に──いや、無い。
ッ!!
スー。
扉がゆっくりと開いた。
息と時が、と…まる。
空気がフーっと重くなった。