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岸高隆史の恋愛物語  作者: 斉藤
本編
9/22

「天界」

数日後。

隆史は、嘘みたいに優しかった。


押しつけでも、気づかれ狙いでもなく、ただ自然に矢智代の荷物を持ち、食器を洗い、話を聞いて、笑った。


矢智代は最初、警戒していたが――徐々に、ほぐれていった。


ある夜、二人は並んでソファに座り、テレビもつけず、ただお茶を飲んでいた。

特別なことはない。けれど、どこか心地よかった。


「ねえ隆史」


「ん?」


「今、幸せだと思ってる?」


隆史は少し考えて、照れたように笑った。


「……うん。たぶん、生まれて初めて“心が落ち着いてる”って感じがする。君と一緒にいて、なんか、それだけでいいやって思える」


矢智代は驚いて、少しだけ笑った。


ナビの声が、やわらかく響いた。


「第六段階、“天”。

この段階では“愛とは与える喜びであり、相手と共にあることそのものが満たしである”と体験します。

だが――それゆえに、愛を失うことが最大の恐怖となります」


その夜、隆史は夢を見た。


真っ暗な部屋の中、矢智代がゆっくりと背を向け、ドアの外へ消えていく。

呼んでも声は届かず、手を伸ばしても届かない。


(ああ……失うのが、怖い)


目を覚ますと、彼女は隣で静かに眠っていた。


隆史は手を伸ばし、そっと彼女の髪に触れた。

心の中に言葉が浮かぶ。


「この人がいなくなることを、こんなに恐れる日が来るとは……」


ナビが囁いた。


「これが“天”です。美しいが、壊れやすい世界。

次のステージ、“声聞”へ――ついに、言葉を超えて“学び”を始める段階です。

あなたの“愛”は、形になれるのか?」


隆史は深く息を吐きながら、目を閉じた。


(学ぶしかない。もっと――この人のことを)

隆史が変わったのは仕事に対しても「苦しい時ほど楽しんで」を使いだしたからである

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