「修羅」
隆史の目が変わった。
優しさも笑顔も消え、今度は異様な警戒心と不安でギラついていた。
「なあ……最近、誰かとLINEしてない?」
朝食中、不意に矢智代に問いかける。
「え? 仕事の人とだけだけど……」
「そっか。じゃあスマホ、ちょっと見せて?」
「……は?」
「いや、別に疑ってるとかじゃなくて。確認したいだけ。安心したいっていうかさ!」
ナビの声が響く。
「“修羅”ステージへようこそ! この段階では、“愛”=“独占”と錯覚し、相手を支配することで安心しようとします! おめでとうございます、あなたの愛、ねじれました♡」
隆史は、家の中のすべてを“管理”し始めた。
冷蔵庫の中身にメモ。通話履歴の確認。矢智代の服装にまで指示。
「今日はそのスカート、やめといたほうがよくない? なんか……見られるの嫌だし」
最初は困惑していた矢智代も、やがて静かに、しかし確実に怒りを感じ始めていた。
「ねえ。私、あなたの“所有物”じゃないよ」
その言葉に、隆史の心がざわついた。
「違う……そんなつもりじゃ……俺はただ、君を大事にしたいだけで……」
「その“大事”って、結局は“自分の不安を潰したいだけ”でしょ」
言い返せなかった。
ナビは機嫌よく告げる。
「はい! “修羅”フェーズ、完了です! ようやく“人”になれますね! 今度は“相手も感情のある存在だ”と学んでいただきます!」
その瞬間、隆史の中に、不思議な“声”が芽生えた。
──彼女は、彼女で何かを感じて、何かを我慢してきたんじゃないか?
それは初めて、自分の中ではなく、“矢智代”という一人の人格に目を向けた瞬間だった。
隆史が変わったのは仕事に対しても「苦しい時ほど楽しんで」を使いだしたからである




