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岸高隆史の恋愛物語  作者: 斉藤
本当のプロローグ
21/22

プロローグ6 まとめ

自分は直すところだらけだったと振り返った

最初の岸高 隆史は、伝説レベルのダメ人間だった。


書類は3回に1回は記入漏れ。

上司の指示は聞き流す。

「明日までに」と言われた仕事は、だいたい明後日に「えっマジすか?」の顔で提出。


製品の寸法を2桁間違えたことが3回。

怒られても、「でも俺、体脂肪率は8%っすよ」と謎の自己アピール。

昼休みには筋トレ動画を爆音で再生、なぜか職場でバック転の練習を始める。

唐突な奇声、異常なポジティブ、そして誰にも共感されないタイプの自由人。


職場では「事故物件」と呼ばれ、直属の後輩には「岸高班だけは配属されたくない」と噂された。


そんな男が、ある日「仕事意識改善薬」と書かれた液体を「プロテインだよ」と言われ、飲まされた。


地獄のような副作用のあと、彼の中で何かが変わり始めた。

■ 1か月目:沈黙に気づく


まず、“叱られた時に黙る”という行動ができるようになった。

前ならヘラヘラ言い訳していたが、今は反論しない。黙ってメモを取る。

その姿に、同僚たちは「なにがあった……?」と本気でざわついた。

■ 3か月目:確認する


「これって、先にこっち仕上げた方が効率いいっすよね?」


初めて“確認”という行為を行った。

指示を鵜呑みにするでもなく、逆らうでもなく、“ちゃんと聞く”。


それだけで周囲の評価は急上昇。


「岸高……ちょっと人間になってるぞ」と課長がつぶやく。

■ 半年後:ミスを減らす


彼は、自分の特性を認めた。


「俺、聞き間違いと早とちりしやすいです。だから、必ず2回復唱して、手順は紙に書いてから動きます」


“自分がダメだった部分”を、初めて対策しようとした。


それは、隆史にとって革命だった。


「もういいから休憩していいよ」

「いえ、今やってるところまでは終わらせたいんで」


その言葉に、同僚はコーヒーをこぼしかけた。

■ 1年後:後輩を持つ


後輩が困っていた時、隆史はこう言った。


「最初の俺は、マジで終わってた。でも変われるから大丈夫。

まず“言われたことを正確にやる”ってとこから始めよう。焦らないでいいよ」


笑いながら、それでいて真面目に、ちゃんと見て、教えていた。


彼はもう、奇声を上げない。

ふざけるのは昼休みだけ。仕事ではふつうに敬語で、ふつうに相手の目を見て話す。


特別なことはできない。エースにもなっていない。

でも、彼の周りに「安心感」がある。


「ふつう」というのは、誰かにとってはつまらないかもしれない。

でも、かつての隆史にとって、それは“登山レベルの高みにある理想”だった。


そして今――彼はその山を、ひとつひとつ登っている。

隆史が変わったのは仕事に対しても「苦しい時ほど楽しんで」を使いだしたからである

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