プロローグ6 まとめ
自分は直すところだらけだったと振り返った
最初の岸高 隆史は、伝説レベルのダメ人間だった。
書類は3回に1回は記入漏れ。
上司の指示は聞き流す。
「明日までに」と言われた仕事は、だいたい明後日に「えっマジすか?」の顔で提出。
製品の寸法を2桁間違えたことが3回。
怒られても、「でも俺、体脂肪率は8%っすよ」と謎の自己アピール。
昼休みには筋トレ動画を爆音で再生、なぜか職場でバック転の練習を始める。
唐突な奇声、異常なポジティブ、そして誰にも共感されないタイプの自由人。
職場では「事故物件」と呼ばれ、直属の後輩には「岸高班だけは配属されたくない」と噂された。
そんな男が、ある日「仕事意識改善薬」と書かれた液体を「プロテインだよ」と言われ、飲まされた。
地獄のような副作用のあと、彼の中で何かが変わり始めた。
■ 1か月目:沈黙に気づく
まず、“叱られた時に黙る”という行動ができるようになった。
前ならヘラヘラ言い訳していたが、今は反論しない。黙ってメモを取る。
その姿に、同僚たちは「なにがあった……?」と本気でざわついた。
■ 3か月目:確認する
「これって、先にこっち仕上げた方が効率いいっすよね?」
初めて“確認”という行為を行った。
指示を鵜呑みにするでもなく、逆らうでもなく、“ちゃんと聞く”。
それだけで周囲の評価は急上昇。
「岸高……ちょっと人間になってるぞ」と課長がつぶやく。
■ 半年後:ミスを減らす
彼は、自分の特性を認めた。
「俺、聞き間違いと早とちりしやすいです。だから、必ず2回復唱して、手順は紙に書いてから動きます」
“自分がダメだった部分”を、初めて対策しようとした。
それは、隆史にとって革命だった。
「もういいから休憩していいよ」
「いえ、今やってるところまでは終わらせたいんで」
その言葉に、同僚はコーヒーをこぼしかけた。
■ 1年後:後輩を持つ
後輩が困っていた時、隆史はこう言った。
「最初の俺は、マジで終わってた。でも変われるから大丈夫。
まず“言われたことを正確にやる”ってとこから始めよう。焦らないでいいよ」
笑いながら、それでいて真面目に、ちゃんと見て、教えていた。
彼はもう、奇声を上げない。
ふざけるのは昼休みだけ。仕事ではふつうに敬語で、ふつうに相手の目を見て話す。
特別なことはできない。エースにもなっていない。
でも、彼の周りに「安心感」がある。
「ふつう」というのは、誰かにとってはつまらないかもしれない。
でも、かつての隆史にとって、それは“登山レベルの高みにある理想”だった。
そして今――彼はその山を、ひとつひとつ登っている。
隆史が変わったのは仕事に対しても「苦しい時ほど楽しんで」を使いだしたからである




