プロローグ3 3か月目:確認する
指示・言葉・を聞けるようになった これも進歩
岸高隆史が次に覚えたのは、「確認する」という行為だった。
それまでは指示を半分だけ聞いて、あとはノリと勢いで動いていた。
その結果、見積書は別の案件のデータ、製品は部品が左右逆、図面と実物が一致しないのは当たり前。
「まぁだいたい合ってればOKっしょ」が彼の口癖だった。
しかし、ある日彼は作業前に上司に言った。
「これ、先に加工入ったほうが流れスムーズっすよね? 念のため確認しときます」
その一言に、上司は絶句した。
確認? それ、岸高が言ったのか?
本人は特に変なことをしたつもりもない様子で、メモ帳を広げて順序を整理していた。
「頭の中だけで処理すると、自分信じすぎるんで」と言いながら。
ミスはまだあった。完璧には遠い。
でも、彼の“間違い方”が変わった。
雑さではなく、未熟さゆえのミスになっていた。
同僚がつぶやいた。
「確認して、段取り組んで……岸高、仕事ってこうやってやるもんだったんだな」
それは、初めて“社会人”として扱われた瞬間だった。
隆史が変わったのは仕事に対しても「苦しい時ほど楽しんで」を使いだしたからである




