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プロローグ2 沈黙に気づく
黙って相手の話を聞けるようになった、という進歩
岸高隆史が最初に変わったのは、「黙る」ということだった。
それまでは何か指摘されればすぐ言い訳。
「いや、聞いてなかったっす」「そういうつもりじゃなかったんすよ」と、ヘラヘラ笑って誤魔化していた。
それがある日、上司に叱られたとき、彼は反論せず、黙ってうなずきながらメモを取り始めた。
言い返さない。言い訳しない。ふざけない。ただ、静かに叱責を受け止めていた。
その姿に、周囲は驚いた。
「……岸高が黙ってる?」
「熱でもあるのか?」
「誰かに洗脳された?」
ざわつく同僚たちの視線の中、本人は無言で、真剣な目でメモを取り続けていた。
その一瞬だけでも、“ちゃんと働く人間の顔”になっていた。
それはまだ、変化のほんの入口だったが、職場の空気が少し変わった。
「何があったか分からんけど……今のままなら、ちょっとマシかもな」
そんな声も、少しだけ聞こえてきた。
隆史が変わったのは仕事に対しても「苦しい時ほど楽しんで」を使いだしたからである




