■ 岸高 隆史のまとめ(本人視点)
■ 岸高 隆史のまとめ(本人視点)
最初の俺は、ただのダメ人間だった。
仕事はいい加減、ミスばっかり、報告・連絡・相談って単語にはアレルギー反応が出るレベルで興味がなかった。
製品を間違えて作っても「まあ大体合ってればいいっしょ」って笑ってた。
職場でも変な奇声あげて、サボって、怒られても右から左。
筋トレ? 痩せ薬? シックスパック? そんなもん“面白半分のネタ”でしかなかった。
それでも――結婚はしてた。
矢智代っていう、よく笑うけど、すごく賢くて、ちょっとこわいくらい芯のある女の人と。
だけど俺の“愛”は、セックスのときだけだった。
優しさも、言葉も、触れ方も、全部その瞬間だけで、終わったあとには元通り。
俺は“愛される”ことばっかり求めて、“愛する”ってことが何なのか、1ミリも考えてなかった。
で――
ある日、コーヒーに変な薬を混ぜられた。
「1000年後に明らかになる愛に至る道」
なんかよく分からんが、10段階で強制進化するやつ。
笑える話みたいだけど、マジで地獄だった。
地獄。餓鬼。畜生。修羅。
何がキツかったって、痛いとか苦しいじゃなくて、
“自分がどれだけ何も見てなかったか”を思い知らされるのが、地獄だった。
誰かを所有しようとしたこと、
理解したつもりになってたこと、
尽くせば好かれると思ってた浅さ、
自分の不安を“愛”と勘違いして押しつけてたこと――
全部、薬に突きつけられて、逃げ場はなかった。
でも、“人”になって、“声”を聞いて、
“沈黙”を読み取って、
最後は「この人の幸せが、自分の幸せより優先できるか」ってところまで来た。
ああ、俺は、
本当に“この人を大切にしたい”って思ってるんだなって、
やっと分かった。
矢智代が海外に行くってなったとき、正直怖かった。
でも、止めたくなかった。
帰ってきた彼女に、もう一度「恋しよう」って言われたとき、
たぶん、人生で初めてちゃんと“恋”の意味が分かった。
俺はもう完璧な人間じゃないし、昔の失敗も消えない。
でも、今なら言える。
俺は今、ちゃんと“愛してる”。
毎日それを続けることが、俺の生きる意味になってる。
隆史が変わったのは仕事に対しても「苦しい時ほど楽しんで」を使いだしたからである




