その後の再会
2年後。
成田空港の到着ゲート。
午後3時、春のやわらかい光がガラス越しに差し込んでいる。
隆史は、白いシャツと紺のジャケットという、見慣れないほど落ち着いた格好をしていた。
手には小さな花束。青と白だけでまとめられた、控えめなブーケ。
ゲートが開き、人の波の向こうに、見慣れた姿があった。
矢智代。
少し髪が伸びて、口紅の色も以前より強い。でも、その目は変わっていなかった。
まっすぐで、まるで何かを読み取ろうとするような、深く静かな目。
ふたりは、黙って数歩近づいた。
先に口を開いたのは、隆史だった。
「……おかえり」
矢智代は、ゆっくりうなずく。
「……ただいま」
一瞬、時間が止まったように感じた。
周囲の喧騒も、アナウンスの声も、遠ざかる。
「そっちは、どうだった?」
「大変だった。でも、楽しかった。あっちで“私”としてちゃんと働けた。逃げずにいたと思う」
「そうか。……俺は、相変わらず地味に生きてたよ。特別なことは何もない。でも、空気の読み方は、たぶんちょっと上手くなった」
矢智代がくすっと笑う。
「前は読めなかったからね、空気」
「うん、俺の辞書に“察する”って単語、なかったもんな」
隆史は花束を差し出した。
「似合うか分かんないけど。あんまり派手なのは、君っぽくない気がして」
矢智代は受け取り、ふっと息をのんだ。
「……ねえ」
「ん?」
「私、もう一度ちゃんと“恋”してみたい。
今度は、付き合ってるとか、結婚してるとかじゃなくて。
ちゃんとあなたを知って、また一から好きになっていきたい」
隆史は、笑った。
「俺も。……初めて君を“愛せるようになった”のは、君がいない間だった。
戻ってきてくれて、ありがとう」
静かに、ふたりの間の距離が縮まる。
手が触れた。
それだけで、充分だった。
言葉はもう、あまりいらなかった。
隆史が変わったのは仕事に対しても「苦しい時ほど楽しんで」を使いだしたからである




