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岸高隆史の恋愛物語  作者: 斉藤
本編
11/22

「縁覚」

存在の共鳴がテーマです

矢智代は、いつものように食卓につき、いつものようにパンとコーヒーを口にした。


だが、その表情がどこか曇っていることに、隆史はすぐ気づいた。


何も言わない。ため息も吐かない。ただ、少しだけ手の動きが鈍い。

パンをちぎる指が、わずかに力を失っている。


「……仕事、行きたくない?」


隆史の問いに、矢智代は驚いて彼を見た。


「なんで分かったの?」


「君がパンをちぎるとき、いつもはふわっとしてるのに、今日はぐにゃって潰れてた。多分、気が張ってないから」


彼女は一瞬黙ってから、小さく笑った。


「……あんた、ほんとに変わったね」


隆史は頷く。


「言葉より前の“気配”って、案外うるさいんだなって思った。昔は全然聞こえてなかった。君の空気も、顔の色も、沈黙の重さも」


ナビの声が、やさしく響く。


「“縁覚”ステージ、進行中。

この段階では、“他者の存在”そのものを感じ、言葉の有無に関係なく“共に在ること”の意味を理解し始めます」


その日、矢智代は会社を休んだ。

理由は言わなかったし、隆史も聞かなかった。


彼は、朝から湯を沸かし、ホットミルクをつくり、ブランケットをリビングに持ってきた。


何も言わず、ただ隣に座って、同じ空間を共有した。


音も、会話もなかった。ただ、そこに在ったのは安心だった。


(ああ、これが“愛する”ってことなのかもしれない)


ナビが静かに告げる。


「“縁覚”フェーズ、完了。

さあ――最終段階、“菩薩”へ。

あなたは今、自分と他者の境を越え、“与える愛”の最終形に挑みます」


隆史は、何も言わず、ただ深く息を吸った。


次は“菩薩”。

それは、愛する人の幸福を“自分の幸福より先に願えるか”という試練だった。

隆史が変わったのは仕事に対しても「苦しい時ほど楽しんで」を使いだしたからである

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