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花見と海

作者: 西園良

 俺の名前は今村利夫(いまむらとしお)。ごく普通の会社員だ。今は4月の季節だから、同僚の女性社員を花見に誘おうと思う。ちょうど俺も彼女も仕事が終わり帰り支度をしているところだったので、早速誘ってみることにする。

「鮎川、ちょっと良いか」

 俺の声に、女性社員である鮎川は帰り支度を中断して、顔をこちらに向けた。

「今度の休みに花見に行かないか」

「それは2人きりってこと」

「そうだ。君の予定はどうだ」

「休日は暇だけど」

 鮎川は思案顔でそう答えた。恐らく悩んでいるのだろう。俺としては、鮎川を憎からず思っているから、是非とも一緒に過ごしたい。暫く考え込んでいた鮎川だったが、考えがまとまったのか、こちらに顔を向けて口を開く。

「良いわ。次の休日に一緒に花見をしましょ」

「ああ」

 よし。成功した。楽しみだなあ。

「場所取りは、もちろんやってくれるのよね」

「え、あ、ああ」

 期待した眼差しに俺は思わず頷いてしまった。

「そうこなくっちゃね。よろしくね」

 そう言って、彼女は帰り支度の作業に戻った。まあ、場所取りは正直怠いが、それを差し引いても、楽しみであることには変わりない。

「それでは、お疲れ様でした」

 俺は社員全員に聞こえるくらい声を上げ、そのまま会社を去った。



 桜がたくさんある場所で俺はビニールシートを敷いた。周りには人が多くいる。この時期は花見をする人がいっぱいだからな。

「綺麗だ」

 思わず呟いてしまうくらいの景色だった。

 暫くして、鮎川が俺のところに来た。私服姿は初めてみたが、似合っているな。

「お待たせ」

「鮎川、よく来てくれた」

「約束だしね」

「ああ、ところで、私服似合っているぞ」

「ほんと。ありがとう」

 頬を若干赤らめつつ、彼女は礼を言った。そして、ビニールシートに腰を下ろした。

「桜が綺麗ね」

「そうだな」

 俺が1人の時に言ったことと同じことを言っている。まあ、桜が綺麗なのは事実だが。

 俺はクーラーボックスから2本のビールを取り出す。それから、彼女に1本渡す。

「ありがとう。花見と言ったら、これよね」

 鮎川はそう言って、手に持ったビールを掲げる。

「乾杯しようか」

 俺の提案に彼女は頷いた。

「じゃあ、乾杯」

「乾杯」

 そして、俺はビールを飲んだ。苦い液体が喉を通って、胃に溜まる。うん。おいしい。

 それから、俺達は夕方まで花見を楽しんだ。


「酔ってるだろ」

「酔ってないよ」

 呂律が回らない声色で答える鮎川。今現在夜。花見自体は夕方まで楽しんだのだが、急激に彼女が何杯もビールを飲み続けた結果がこれだ。どうしよう。こいつの家知らないんだよな。

「1人で帰れるか」

「大丈夫」

 そう言って、ふらふらしながらも、帰って行った。心配だが、本人の言葉を信じよう。そう思って、俺は片付けを終えて、帰った。


 翌日。会社に出勤して、鮎川を見つけたので、体調を尋ねてみた。

「心配してくれてありがとう。私なら、大丈夫」

 そう言う彼女の顔色は良いので、強がりではなくて、本当に大丈夫なのだろう。

「分かった。じゃあな」

 そう言って、俺は自分の席に行くのであった。



 8月。季節は夏。夏と言えば、海。山とか祭りとか色々あるが、俺は海に行きたい。でも、1人で行くのもなあ。だから、俺は鮎川を誘うことにした。

 昼休み。彼女は持参した手作りの弁当を食べていた。俺は鮎川の元を向かうと口を開いた。

「美味しいか」

 俺がそう言うと、彼女は顔を上げ、視線をこちらに向けた。

「うん、美味しいわ」

「そうか。料理上手なんだな」

「そうでもないわ」

 彼女は明るく謙遜した。

「ところで、今度の休みに2人で海に行かないか」

「それは私と今村君の2人でってこと」

「そうだ」

「うん、いいわよ」

「決まりだな」

 海に行く約束を取り付けた後、俺は自分のデスクに戻った。



 休日。俺は鮎川と共に海に来ていた。彼女の水着姿は意外と似合っていた。

「水着似合っているな」

「そう、ありがとう」

 俺の褒め言葉に、彼女は少し照れながらもお礼を言ってくれた。

「さあ、海に入る前に準備体操だ」

「ええ」

「1、2,3,4」

 俺達は準備体操をした。

 準備体操が終わったので、俺はさっそく海に潜った。暑い日に泳ぐのは気持ち良い。

「ぷは」

 俺は泳ぐのを止めて、顔を水面から出す。鮎川の方を見ると、彼女も泳いでいるようだ。彼女も楽しんでいるのを嬉しく思いながら、俺は再度泳いだ。


 俺達は泳ぎ疲れたので、海から上がって、休憩していた。

「誰か」

 突然大声で助けを求める声がした。そちらに顔を向けると、1人の女性が海の方を見て、叫んでいた。そっちを見てみると、1人の男の子が浮き輪に乗って、遠くに流されていた。まずくないか。

「誰か」

 再度女性が叫ぶ。男の子の母親だろうか。母親でいいや。その時、男の子が浮き輪から落ちて、海に溺れる。しかし、見知らぬ男性が海に向かって泳ぎ始めた。

 無事男の子を救出して、海から上がった男性は男の子を抱えて、母親の元へ行った。

「ありがとうございます」

「いえいえ、では俺はこれで」

 そう言って男性は去って行った。

「なんで落ちたの、あんた」

 母親が男の子に注意する。男の子は何も言わない。そして、彼女は視線を近くにいた男の子Bと女の子に向ける。兄弟だろうか。

「なんで、あんたら何もせず、見てるだけだったの」

「ごめん」

 女の子が謝る。男の子Bは何も言わないが、申し訳なさそうな表情をしていた。

「いやあ、助かって良かったね」

 鮎川がそう言ったので、俺も、そうだな、と返しておいた。


 夕方。そろそろ暗くなるし、帰る準備をした方が良いな。

「じゃあ、そろそろ帰ろうぜ」

「そうね」

「今日は楽しかった。ありがとう」

「私も楽しかったわ」

 鮎川が笑顔で言う。

 そうして、俺達は帰路に就いたのだった。


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