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第6話 婚約者ができました

「え? 婚約? 私の?」


 全ての単語にクエスチョンマークを付けながら、私は向かいのソファに座るお父さまとお母さまを見る。

 私を囲むように、両隣に座るお兄さま達も、眉を寄せていた。


「先ほど、王家からの遣いが来て、来月戦争終了の祝賀パーティが王城で行われると通達があったのだ」

「ということは、お父さまとお母さま、それにアレ兄さまとメル兄さまが行かれるのね」


 お父さまの言葉にそう返せば、お母さまがニッコリと笑う。


「イリスも行くのよ」

「へ?」


 お間抜けな返事をしてしまった。でも、仕方ないよね。だって、私が行く必要なんて全くない。


「というよりも、我が家は全員呼ばれているの。さすがに領地を空けるわけにはいかないから、お義父さまがこちらに来てくださるわ」


 お母さまが言うお義父さま、つまり私達のお爺さまね。お爺さまは普段、お婆さまと二人で王都のタウンハウスに住んでいる。

 先の戦争では、我が家の戦神の一人であるお爺さまは、前線には出ず王都で万が一を守っていた。何もなかったけどね。


「それで、どうして兄上達はともかく、俺やウェスタ、イリスまで王城に?」

「テミー兄上の言うとおりです。わざわざイリスを王城に連れて行かずとも……」


 テミー兄さまは戦績のある兄さま達以外は不要という主張だけど、ウェスタ兄さまは、なんだか私を王城に連れて行きたがってないような……。

 あ、でも王城に行くと言うことは、乙女ゲームの第一王子とかに会っちゃう可能性があるのか。

 そう考えると、行かないで済むなら行きたくないなぁ。


「それが、陛下からのご依頼なんだよ」


 へいかからのごいらい。


 それはつまり──。


「お、王命ってことですか、お父さま」


 私の言葉に、苦笑いを浮かべながら頷く。


「それでね。向こうに行くと、いろいろとイリスの婚約とか言われそうじゃない?」

「私の婚約を、ですか?」

「ああ、なるほど。辺境伯家と縁を繋ぎたいという家は多いですからね」

「確かに、メルクリウの言うとおりだ。しかもイリスは我が家の宝。嫁いだ先にも手厚くすることが予想できるというわけか」


 お母さまの言葉に、メル兄さまとアレ兄さまが反応する。

 そんな上二人の兄さま達には、すでに婚約者がいる。どちらの兄さまの婚約者も、武門の家のご令嬢だ。何度かお会いしたことがあるけれど、皆さんとても優しくて、家族になるのが今から楽しみ。


「だからね。さっさと婚約を成立させてしまおうかと思ってるのよ」

「えぇと……。お母さま、それでお相手は」

「ふふ。誰だと思う?」

 

 乙女ゲームでは、悪役令嬢イリス・エーグルの婚約者は第一王子だった。つまり、ここで他の人と婚約ができれば、私の悪役令嬢ルートは初っぱなから変更になるのでは? そう、そうよ!

 でも──もしも相手が第一王子だったら?

 前世の記憶が蘇ったからといって、今の私は貴族令嬢だ。領地のための政略結婚や王命には逆らうことはできない。

 うう……。お母さま、じらさないで早く教えて欲しい。


「デリーよ」

「母上っ! それは!」


 私よりも先に、ウェスタ兄さまが反応した。


「デリー……って、あの、デリーなの? 戦争が始まるまで、一緒に過ごしていたデリー?」

「ああ。あのデリーであっているよ、イリス」


 お父さまがにっこりと笑って、悪くないだろう? という顔をした。


「知らない人と婚約するよりも、全然良いわ!」

「父上! 本気ですか? あいつ──彼は!」

「ウェスタ兄さま?」


 一人反対しているウェスタ兄さまに声をかけると、兄さまはハっとした顔で私を見る。


「イリスはそれで良いのか?」

「うーん。会ったことがない人で、私に酷いことをするような人と婚約するよりも、デリーなら安心かな……って」


 例えば第一王子とかね。

 私という婚約者がいるのに、浮気するような男はお断り。デリーについては、男性として見たことはないけど、少なくとも一緒に遊んでいたときに、嫌な思いをしたことはない。兄さま達と同じように、私に優しくしてくれたから、きっと大丈夫だと思うのよね。


「じゃぁ、話は進めるわね」

「はい、お母さま。大丈夫です」


 ウェスタ兄さまは、ため息を一つ吐いたあと、私の頭を撫でながら笑った。


「イリス、何かあればすぐに兄さまに言うんだぞ。一人で抱え込んだりしたらダメだからな」

「ウェスタ兄さまったら、私が今すぐにお嫁に行くみたいに言うのね」

「嫁に行く前だって、何があるかわからないだろ?」

「……そうね。わかった。何かあればすぐに、ウェスタ兄さまに言うわ!」


 どこで乙女ゲームの強制力みたいなものが、働くかもわからない。

 もしかしたら、婚約者が第一王子じゃなくなっても、悪役令嬢の仕事をさせられるかもしれないもんね。

 そうなったときは、すぐにウェスタ兄さまを始め、家族に相談しよう。うん! 報連相。それが大事!


「デリーとは、王城のパーティの前にでも、会いましょうね。あぁ、ドレスを作ったりしないと。忙しくなるわよ、イリス」

「え……、あの……。ハイ……。お母さま、領地もまわりたく……」

「そうねぇ。支度の間なら構わないわ。アレウス達に聞いたけど、随分と難しい本まで読んでるみたいじゃない」


 あ、兄さま達ったら、しっかりお母さま達にも伝えたのね。


「お家に籠もっている間に、領地の役に立つことを学びたくて」


 万一断罪されたときのためにも、領地の役に立っておきたいしね。


「本当に、イリスは良い子だなぁ。よそに嫁にやりたくなくなる」

「父上、それですよ。婿をとって領内に住んで貰えば」

「テミーったら、なんて良いアイデアを……。まあ無理でしょうけどねぇ」


 お父さま、テミー兄さま、お母さまの会話を、皆が──部屋にいる侍女やメイド達までもが頷きながら聞いている。

 いやほんと、イリス・エーグルってば愛されすぎなのでは……。


   ***


 イリスと『デリー』の婚約が決まった。

 これがイリスにとっては、始まりとなってしまうのだと思うと、僕は不安とそれ以外の気持ちで胸がいっぱいになってしまう。

 大切な大切なイリスを守る。

 それは僕にとっては、絶対だ。

 あの子が万が一にも辛い思いをしないように、大事に大事に守らねば。

 本当は、領地から一歩も出さずに、真綿で包んでおきたいけれど。

 そんなことはできるわけがないから。

 だから僕は、僕にできる限りのことをして、イリスを守るよ。

 

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